複雑・ファジー小説
- Re: Love Call ( No.69 )
- 日時: 2011/09/16 22:48
- 名前: 葬儀屋 (ID: 2cEGTv00)
「なんか……いっぱいだねぇ」
すーくんの言葉に私は大きくうなずいていた。
今、私たち全員が集まる食事場は定員オーバーしていた。元々四人で使うのも狭かったのに、其処に華奢とはいえ成人男性と女性が入ってしまえば、もう、パンク寸前だ。
「あやのぉ、お野菜とってぇ」
「……すーくん、これなに?」
「まだ食べ物あるから順番通りとってや!」
「……」
会話が入り混じり、混乱する私にぴとーっと寄り添っているのはニューさんだった。
「……あのニューさん……どしましたか?」
「うん? あぁ、なんか良いなぁと思って」
「……これのどこが」
目の前にはしきりに皿へと食料を盛っていく少年と、パンをまるで動物を観察するかのような目つきで見つめる男性と、口元には頬笑みを浮かべながらも眼は笑っていない青年と、そのようなカオスの中で不満一つ吐き出さず黙々と食事をとるむっつり君がいる。このような状況の何処が良いのだろうか。
「なんて言うか……生活感があるなぁと思って」
「あぁ、なるほど」
先ほどニューさんの生い立ちを聞いたのだが、確かに、大金持ちの家でこのような光景はまず見られないだろう。
普通の家でも見られないと思うけど……。
「私、こういう生活に憧れてた。良いね、此処」
「へぇ。まぁ……」
此処まで来るのに、たくさんの時間を使ったもんね。
私とすーくんが此処に来た時。すでにユキフさんは此処にいて、ジュンさんは快く行く宛てもない私たちを引き取ってくれた。
何故だか、此処に来る人々は訳ありが多い。私には暗い過去などはないけれど、すーくんやユキフジさんは……かなり暗い過去を持っている。
「時間って……偉大ですよね」
「宿命も、それを見つめる勇気もね」
ニューさんは私の頭に顎を置き、そっと両腕で私の肩を抱きしめる。
「強い子は折れやすい子。本に書いてあったよ?」
「……あやのは強くないですから」
そっと、彼の記憶に触れてみたとき、私は改めてそう思った。
黒い人影が伸びて視界を覆い、痛みが走る。痛い痛いと叫んでいるのに無理やりナイフを握らされ、人間を殺す。毎日毎日赤い景色を見て、血を飲んで吐いてしまう。
誰も味方のいない世界。
それが彼の記憶だった。
恐らく、一番悲しくて辛い記憶。飛び散る黒い羽根。断末魔の叫び声。
そして、崩れる白い身体。
白くて……真っ白だったはずの翼は、赤黒く染まっていた。
——……リウ……ユリ……ス!——
——……天使……ぃ——
天使。あぁ、そうか。彼は天使に会ったんだ。
白くて、儚くて。うっすらと滲む視界の中で、天使の口は頬笑みを湛えている。
——たとえ、……——が僕を忘れてしまっても……僕は……僕は、良いから……。
僕、……——が生きてるだけで、嬉しいから——