複雑・ファジー小説

Re: Love Call ( No.72 )
日時: 2011/09/17 23:05
名前: 葬儀屋 (ID: 2cEGTv00)

「あやのぉ〜パズルやろぉ〜」

 夕食後。すーくんの声に呼ばれ、私はすーくんの遊び場に入った。

 遊び場……とはいっても、ただおもちゃが散乱しているだけで可愛い装飾などはされてない。すーくんは丁度、飛び出すへ本を抱え、パズルのあるおもちゃ箱に足を取られているところだった。

「すーくん!」

「う?」

 私を見つめたまま、すーくんは見事に転倒。腰からおもちゃの山に突っ込む。

「あーごめん。片づけとけばよかったね」

 私はすーくんを引っ張って起こすと、床の壁のおもちゃを適当に放り、座ってもらった。

「あやの……パズルやろぉ。すーくん、つまんないぃ」

 駄々をこね始めるすーくん。私は作り笑いを浮かべ、パズルをとってくる。

 簡単な六ピース程で構成されたパズルをすーくんは楽しそうにはめていく。

 すーくん、無理しなくていいのに。本当は、そんなの、つまらないくせに。

「すーくん?」

「なに」

「楽しい?」

「うん、たのしぃ!」

 すーくんの笑みは太陽みたいだ。偽物の太陽なんだけど。

「がっこ、まだや?」

 あえて、その笑顔を凍りつかせて見せる。

「あ……あぇ……ぇっと……すーくんね……」

 言葉に詰まるすーくん。ううん、思い出さないように必死なすーくん。だって、すーくんの中ではまだ二つの心が喧嘩してるはずだもん。学校に行かなきゃいけないっていう心、学校なんて親なんて大っ嫌い、全部忘れてやるっていう心。

「えっと……クロさんにチェスもっと教える!」

 あぁ、またその言い逃れ。

「でもさ……クロさん、もうすーくんよりチェス強いよ? 文字だってジュンさんに教えてもらってるし、明日にはもういなくなっちゃう」

 私の言葉にすーくんは追い詰められている。私って、ひどい人かな。此処まで追い詰めちゃった。すーくんの眼に涙がたまる。

「ねぇ、思い出してよ。前は、もっと楽しかったじゃん。ねぇ……ねぇ? 

 粋」


「やめええええええぇぇぇぇぇてええええええええええええええ!!!!!!!!!!」


 すーくんの身体が私を押し付ける。ぎゅっと気管がつまり、吐き気がこみ上げる。

「す……すーくん……っは! が……ががっこ……っ……なんか! 行かなくても……いいいい……良いんだもん!!!!!」

 霞む視界。さらに強くなるすーくんの手。あぁ、これでいいんだ。これは罰なんだ、すーくんをいじめた罰。

 私の心の中の窮屈さが消滅していく……。


「すーくん」


 いきなり空気の塊が肺に流れ込んだ。反射的に私は起き上り、せき込む。

 名を呼ばれたすーくんの手は、強い力で握られていた。すごい形相ですーくんは私をにらみ、手に呼び掛ける。

「クロさん……いたいぃ」

「すーくん……あやの、くるしそう」

 寂しそうな声に、私は顔を上げた。

「だめ……ころしちゃだめ」

「だってぇ! あやのがすーくんのことぉ」

「だめ」

 その口調ははっきりとしており、私はまるで、目の前の彼が別人のように見えた。

 彼の記憶の中で見た、前の彼の姿。

「……………」

 彼は、私の視線に気づくと


 矛盾ない、まっすぐな笑みを口元に湛えた。