複雑・ファジー小説
- Re: Love Call ( No.77 )
- 日時: 2011/09/19 11:41
- 名前: 葬儀屋 (ID: 2cEGTv00)
「いたいぃ……いたあああぁぁぁあああああぁぁいいいいいいぃぃいぃぃぃ!!!!!!! はあぁなあぁああしぃぃぃいいてぇええぇぇえええ!!!!!」
空気が震えるような絶叫。すーくんは叫び、泣いて、暴れだした。
しかし、彼はそんなすーくんを抑えつけ、抱きしめる。ひるむ様子もなく、やはり……彼は別人なのだろうか。
「……すー……くん?」
私が近寄ると、すーくんは口を閉じ、目線が定まらない眼を閉じた。
「ごめぇん……あぁやぁのぉ……すーくん……悪い子ぉ」
自らの爪で、頬を引っ掻きまわる。血が滲み、汗と混じってどろどろになった。
「悪い子ぉ……悪い子だからぁ……」
「すーくんは悪くないよぉ!? あやのが悪いのぉ! すーくんは何もしてないのぉ!」
すーくんの手を包み込み、私も叫んだ。すーくんに届くように。粋に……絶対に粋にも届いているはずだから。
冷たくて、震える手。すーくんは微かに首を振り、かくんっと頭を垂れた。
刹那、小さな吐息。
「……寝ちゃった……?」
私はほっとし、瞳を閉じたすーくんの頬を撫でる。
赤く染まった頬の傷は、無数に出来ていた。
「……クロさん……ありがと。……クロさん?」
すーくんの無事を確認したのに、彼はすーくんを見つめたまま、動かない。もしや彼も寝ちゃった? 眼を開けたまま寝ている彼が心配になり、そっとその瞼に触れようとした時……。
「コイツには、パニック障害があるのか?」
「うん、そうなんだけどね……押さえつけてくれてアリガト。此処までしないともっと暴れちゃうか……ら???」
いきなり問いかけられたので、つい違和感なく答えてしまった。
「……へ?」
「安定剤を出して……もらってはいないようだな。今すぐ精神科に行けば良いだろうが、公共施設に抵抗があるのが分かった。お前が一番親しそうだったから縛ってでも連れて行け……それと」
「ここ、何処?」
顔を上げた彼の瞳は、力強く、幼かった言葉づかいまでが変わっていた。
「え??? ……へ??? クロ……さん???」
「は? なんだその名前。……服が黒いから?」
なんて安易なネーミングと言わんばかりに顔をしかめられ、私はおどおどと視線を泳がせた。
「だ……だって、ネクロフィリア……って」
「おい、ちょっと待てよ。いつから俺がそんな変態チックな趣味を持ったんだよ。しかも其処からとってクロか? やはりお前は馬鹿か」
やはりとは何事だ! 私の心の中を見透かすように彼は笑い、そっとすーくんを私に渡すと、何処からともなく煙草を取り出した。
状況判断に苦しむ私の前で、彼は一服。じろりとこちらを睨む。
「お前、名前は?」
「あやのです……」
「ふぅーん、変わった名前だな。その横の奴も……粋って言ったか? ここらの名前ではねぇな」
吐息を吐きだす。二度目ほどで小さなこの部屋の中には煙草の煙が充満した。
「俺も一応名乗っておくとしよう。そんな、へんてこな名前で呼ばれるのは恥だからな」
何をエラそうに……! さっきまでパンを見つめながら「すーくん……これなに?」とか言ってたくせに!
彼は煙草を器用に折り曲げ、これも何処からか取り出した銀色のケースにしまった。
そして、私を見降ろし、恐ろしいほどに口をぐにゃりと曲げた。
「俺の名はシャムシエル。
この村に堕ちた堕天使だ」