複雑・ファジー小説

Re: Love Call ( No.80 )
日時: 2011/09/19 15:49
名前: 葬儀屋 (ID: 2cEGTv00)

 状況判断に苦しむ私。其れを傍観し、彼はさも愉快そうに笑った。

 目の前には彼がいる。しかし、其れは彼ではない。彼の身体があるわけであって、中身は別人。堕天使とか言ってるけど恐らくペテン師だと思うし……。

 私は、自分なりに整理し、結論を導き出した。

「堕天使! クロさん身体から離れろ!」

「……は?」

 手に持っていた煙草をとり落とし、彼は凍りつく。ほら見ろ図星だ。この老いぼれ堕天使め。

「おい、ちょっと待て。お前なんでそう言う思考回路に行きつくわけ? 本気で馬鹿なんだな」

「ちょ……馬鹿馬鹿五月蝿い! 早く出てってよ! クロさんにあんたの悪い気がくっついちゃったらどうすんの!?」

 あんな純粋で可愛い人を汚すわけにはいかない。私の言葉に、彼に乗り移った堕天使……シャムシエルは呆れたように笑った。

「可愛いのも良いけど、思いこみすぎるのもほどほどにしろよぉ。

 まぁ、無理もないよな。いきなりこんなことになったんだし……。しかし考えてみろよ」

 シャムシエルが私の頭を撫でる。

「何故、俺はこんなにも早くコイツになじめたんだ? お前は詳しそうだから分かるだろう。霊が生体にはいる時、なじむまでにタイムラグがあるって」

「……だって、さっき固まってたし。それからこうなったんだからそうでしょ?」

「粋って奴を抑え込もうと言う確かな意識がある人間になじむには、小一時間ほどのタイムラグが生じる。俺はそんなに時間をかけたか?」

「……う」

 言葉に詰まる私を見て、満足そうにほくそ笑むシャムシエル。

「そしてもう一つ。何故こいつがのっとった俺のために煙草とカンケースを用意していたか、だ。予知能力でもない限り、そんなことは不可能」

「うぅうぅうぅうぅうぅ!!!!!」

「受け入れたくないのは分かるが、お前の信じてたクロさんは、俺。この身体が記憶をなくす前の人格は俺、シャムシエルなんだよ」

 本当に受け入れたくない現実を突きつけられ、私はすーくんをギュッと抱きしめた。

「死んでも信じないもんね! そんなこと!」

「おうおう、信じなくても良いぞ? どうせ、俺もそろそろ此処を出ていくつもりだったし……」

 軽くすーくんの頭を撫で、シャムシエルは軽く窓を開けて外に飛び出した。

「ちょ! 何処行くの!?」

「ソイツ、早く精神科連れて行ってやれ! 重症だからな、入院も考えるんだぞ!」


 シャムシエルは最後までそのようなことを言いながら、濃い闇の中に消えていった。