複雑・ファジー小説

Re: Love Call ( No.86 )
日時: 2011/09/23 00:50
名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)

 俺は落ち着きなく、ニューが握る自分の手に目線を落とした。

「ねぇねぇ、あれって何? あれがモデルガンっていうの? 触りたいぃねぇガイキ〜聞いてるぅ?」

 射的屋を指差し、無邪気に笑うニュー。俺は少なからずも気後れしていたが、なんとかそのハイテンションに付いていく。

 今日は『聖少女の日』。村には普段ならばない屋台が並ぶ。無理やりニューにひっぱりだされた俺は、手をひかれながらも、周りの景色をまじまじと見つめていた。

 全く、俺らしくない。だって、俺は他人とはなるべく干渉しないと決めたんだ。そして、今までとてもうまくいっていたのに。

 どうも流されやすい。ニューはずっと俺を引っ張っていく。俺はそれに反抗できない。ただただ、なすがままに流れていく。

 ……他人との干渉を好まなくなったのはつい最近といっても良いだろう。そのため、記憶は鮮明だ。こんな騒音を聞いていたら、また、思い出してしまいそう。

 確か、その時もこんな祭りの日ではなかったかな。


 俺は愛する人がいた。名前はアイシャ。俺と同い年で同じ学校に通っていた。一目ぼれをした俺は、アイシャに自分の意思を伝えた。アイシャは、快諾してくれた。

 アイシャを俺は心から愛していた。性格の暗かった俺も、彼女の根っからの明るさに照らされ、明るくなっていった。アイシャの性格はまわりから好印象だったため、友達と呼べる人間も、周りに増えていった。

 しかし、アイシャは愛され過ぎていたのだ。

 丁度、このようなイベントがあった日。アイシャには何人もの自称恋人が殺到した。アイシャが俺と恋仲だと知っている友達も、中には、数人、含まれていた。

 アイシャはそのすべてを俺の前で否定してはくれたが。俺の中で不安は募っていく。

 友達の数人が、放った一言。

——何故こんな奴を選んだんだよ!——

 改めての実感だった。そう、俺には何もない。金も、頭も、顔も……。それでもアイシャはそれすら否定してくれたが。

 分かっている。アイシャすら俺の存在の価値のなさを見つけてしまう。いつか、否定すらしてくれなくなるだろうから。

 その前に、そのままの、君を。

 ×××、閉じ込めよう。

 最後の彼女の断末魔は、いつまでも頭の中で響いていた……。

 はずだったのに。


「ガイキ? どうしたの? 気分悪い?」

 下を向いていた俺に覗き込んだニューは、あまりにもアイシャに似すぎていたのだった。

「うるさかったかな? しばらく休もう? こっち、静かだから」

 嗚呼、君はとても優しすぎたから。俺を敵に回す者すべてを否定してしまったから。

 俺が住む場所は、君の中でしかなくなってしまった。