複雑・ファジー小説
- Re: Love Call ( No.89 )
- 日時: 2011/10/18 17:03
- 名前: 葬儀屋 (ID: 7BFkVMAM)
僕の居場所を奪ったのはみんな。僕を奪ったみんなから逃げても良いよね?
アヤノはうないずいてくれた。僕のこと、肯定してくれた。其れが嬉しくって……僕は分かってるんだ。僕はすっごく、アヤノに頼っちゃってる。
アヤノは僕の重さで潰れそうになっている。
「うあぁ……粋……すーくぅん……だめぇ……駄目えええぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!!!」
アヤノの叫び声で眼が覚めた。僕は一瞬で青ざめて、アヤノに飛びついた。
珍しいもん、アヤノの叫び声。粋って呼んでくれたのも、久しぶりかな?
「あやのぉ……大丈夫ぅ? 大丈夫ぅ……すーくん、何もしないよぉ?」
僕の呼び掛けに、アヤノは答えない。まだ叫んでいるその口を、僕は必死でふさいだ。
アヤノは、いっつも僕をどうやって落ちつけてくれているのかな。ばたばたして苦しそうなアヤノの口を押し付けるのは、僕は嫌だった。
「すぅーくん……もう、大丈夫だよぉ? ……赤くなっちゃったねぇ。お風呂いこっかぁ?」
嗚呼、またこれ。僕たちが、一緒に出てっちゃった時の夢。あの時のアイツの表情は最高だったなぁ。
なんでか、アヤノは泣いてたけど。
アヤノはそれからしばらく叫んで、ちょっと泣いて、落ち着いてくれた。ほっとして、僕が戻ろうとした時。
「……終わったんかい?」
頭上から声がかけられ、僕が上を向くと、ジュンさんがにっと笑ってた。
「どうや? 夜食ちゅーもんが出来あがっとるが……アヤノちゃんは落ち着いたようやしなぁ」
「……どうや? そろそろ君たちの事情を俺も聞いていい頃やないか?」
インスタントのラーメンをすすりながらジュンさんは僕に笑いかけた。
「……すーくん、分かんな」
「そのキャラもやめぇな。俺は素の君を見たい」
「……キャラなんて、失礼だね」
僕の声に、ジュンさんは満足したようにうなずいた。何なんだろう、この人。
「僕たちは……僕はただの家出だよ。アヤノは……僕に付いてきてくれたんだ」
「なるほどなぁ……そんで、ヤクザまがいみたいにナイフ持って、ガイキを脅したんかぁ」
「……」
気まずい沈黙が続く。僕はジュンさんを見るが、ジュンさんはあらぬ方向を見たまま、美味しそうにラーメンをすすっている。
この人は何処まで知っているのだろうか。僕たちのことに興味があるのだろうか。良くわからない表情を、僕はなんとか読み取ろうとした。
「……残念なことに、俺は君たちのことをなんにも知らん。ひょろひょろしたモヤシっ子二人が、ナイフを使って自分らより年上の青年を脅す……そんな未知のことがあるんやったら、俺はその理由、知りたいなぁ」
「全部知ってるんじゃないの?」
「大まかなことは知ってる……かなぁ」
やっぱり。僕は溜め息をついて、ジュンさんから目線をそらした。
「なら……分かってるもんね。僕たちの大まかな事情……それなら、隠したって無駄かも」
「おうおう、やっと話してくれるかいな?」
食べる行動をやめたジュンさんに、僕は軽く苦笑する。
「僕は……ね。天才家族の家系に生まれたんだ。毎回テストは百点でなくちゃいけなくてね。お母さんたちは自分の考えばっかり押し付けて僕の存在すら自分たちの名誉でしかなかった。
ある日……うん、体調悪かったんだ。テスト受けたら九十七点。悪くても三点しか失点しちゃいけなかったのにね。それで……両親は完全に僕を否定したんだ。アヤノはずっと僕と一緒にいてくれたけど、僕はお母さんたちが憎かった。
そしたら、僕が言ったんだ。
「いなくなってもらろう」って。
僕が両親を否定してあげたんだよ。
アヤノは……悪くない。息の根を止めたのは僕。殺人を犯したのは、僕……だからね」
見上げると、ジュンさんの表情には、今まで見たこともない、悲しい、悲しい顔をしていた。