複雑・ファジー小説
- Re: Love Call ( No.92 )
- 日時: 2011/09/24 17:33
- 名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)
私は恐らく、特別なのだと思う。
だって、霊体に触れるんだから。
「……はじめまして……?」
首をかしげる私に、少女は爆笑した。
「な……笑うな! 幽霊のくせに」
『いやぁ……すまん。あまりにもとぼけた顔だったからな。つい笑ってしまった』
つい、ではないでしょ。おかしいでしょ? 私の心を見透かすように少女は真顔になり、軽く頭を下げた。
『すまん……君の眠りを妨げるようなことはしたくなかったのだが……どうもこの頃、干渉できる生体が見つからなくてな。君は詳しそうだったので』
「その詳しそうって……なんでわかるの?」
『マ……いや、ある人物からの紹介でな。私似の少女がいると聞いてやって来たのだ。生体と干渉するには何点か、私に共通点がなくてなならないからな』
確かに、少女の容姿は私に良く似ていた。……唯一違うと言えば、冷ややかな光を纏う瞳だけだろうか。
「ふん……で、なんのお悩みですか?」
『あ、あぁ……其れが……という前に、君の名前は何だ?」
いきなりの問いに、私は少し戸惑った。
「……本名?」
『勿論だ』
「……あやの」
『アヤノ……覚えておこう。
私の名はシャムシエルだ。これから仲良くして行こう』
衝撃のあまり固まってしまった私の思考に、少女……シャムシエルは驚いたように両手を振りだす。
『ど、どうした?! 何か不都合があったのか……?』
「い、いや、それって男の名前じゃないの? しかもその……」
『あぁ、古くから女遊びで身を崩した天使の大将……堕天使シャムシエルの名で知られているな」
当たり前だと言うようにシャムシエルは平然としている。私は動揺している頭を回転させ、答えを導き出した。
そうだよ、おんなじ名前の人はこの世に何万といるじゃないか。驚くことなんて何にもない。
『それで、ネクロフィリアのことなのだが……』
こいつは何度私を昏倒させれば気が済むのだろうか。あり得ないワードが次々と飛び出すことに、私は不快感を覚えていた。
『……君はこの名前の方が知っているのだろう?』
「知り合い?」
『知り合い……も何も、名前をやった身だ。親友……いや、悪友と言っていいだろう』
親友と悪友では全く言葉の意味が異なってしまうが……今は別に良い。
「名前をやった?」
『あぁ、君も知っての通り、アイツは記憶をなくしている。其れも、全て……な。
私がアイツと初めて会った時、アイツは弟を連れていたんだ。しらないか? 聖少女の話を』
「聖少女……? あぁ、あの御伽噺っぽい奴?」
『そう……それで殺されたっていうのが、その弟、だ。殺した聖少女が……私、シャムシエルとなっている」
「……あ〜ぁ、私のこれも悪用の対象になっちゃったんだ……可愛そう、私」
『……良いから聞け! 私は本当に存在していたんだ!」
耳をふさぐ私にシャムシエルは無理やり大声で話し出した。
『生贄として差し出されたと伝えられているが其れは嘘……私は幼いころから猟師の父親に育てられ、ライフルの扱いに慣れていた……私はもともとから堕天使を殺すために送り込まれたのだ。
そして、絞り出すように言われた。数人の男……子供や私と同じ年の奴も一緒に雪山に閉じこもり、飢餓の状態において、堕天使の力を引き出そうとしたのだ。それは成功し、堕天使は他の人間を食い散らかした……。
残ったのは、双子の兄弟。そのうちの一人……弟の方だった、名はユリウス。彼が人を食らった張本人として、私は……そいつを殺した。
絶望だったのだろう。真っ赤に染まった弟を抱いて、兄は死のうとした。私はそれを止めた罪として、名前を捧げた。
兄、エクエス。それがネクロフィリアの本名だ。そして、彼は忘れている。何故、死人を葬送し続けているか。
まだ……弟の亡骸は残っている。アイツは探しているんだ。弟の身体を』
シャムシエルは其処まで一気に言うと、悲しそうに笑った。
『君が……アイツに伝えてくれないか』
あまりの衝撃に、私はしばらく黙っていたが。
「考えて……おくよ」
シャムシエルはまた来ると手を振り、いってしまった。