複雑・ファジー小説
- Re: Love Call ( No.95 )
- 日時: 2011/09/25 04:34
- 名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)
そう言うもんなんだな、世界って言うもんは。
俺をきょとんとした眼で見上げる粋君に微笑みかけた。
「まぁ……なんや? 俺は犯罪犯した奴にお前人殺しやろーって言うような酷ちゃう。それを個性として見ていくから……君は我慢せんでよろしい」
ぽんぽんと頭に手をやると、怒られそうなので、そっと手を引っ込める。
「……僕はそうだけど、アヤノは違う。アヤノは何も知らないんだ……だから、このことも話さないでね?」
そんなこと言われたら、誰かに話さなきゃ気が済まないのが、俺。ごめんなぁ、粋君。
心の中で思ってもいないようなことで謝罪をし、俺は傘を傾け、土砂降りの雨をばしゃばしゃと受け流す。
「寒うないんですか? こんなとこで」
「は、慣れたからなぁ、野宿」
彼は自嘲気味に笑い、俺を見上げた。
「っち、調子に乗りやがって……。低体温寸前だ、いれてもらうぞ」
「はいはい、素直じゃないですねぇ相変わらず」
「うっさい」
彼はぶつぶつと愚痴をこぼすのが癖のようなもので、俺も、もうそんな事には慣れていた。
黒いコートの中からマジックのように煙草を出し、口にくわえ、火をつける。
「禁煙中……じゃなかったんですか?」
「へ、そんなもん関係ねぇよ……どうせ、後少しなんだし」
くすくすと笑った俺は、彼ににっこりと微笑みかける。
「使っていただけるんですか? あれ」
「……あぁ……最近、アイツのことも忘れかけるんだよなぁ、不思議だ。早くしないと……繋がらないかもしれねぇ」
「しかし、その前に身体を見つけるのでしょう?」
苦笑をし、彼は俺の肩に手をかける。
「そうしないと、俺の気も済まねぇし、アイツから名前をもらった意味もねぇ……そうだ、マニュアル屋。テメェがシャムシエルの情報、垂れ流したって本当か?」
マニュアル屋……俺の職名で彼は俺を呼ぶ。それはちょっとばっかし気に食わへんが……まぁええやろ。
「ちょっとね。アヤノちゃんにばれちゃった」
「一番タチ悪い奴だな……全く、運がねぇなぁとことん」
ふらふらと彼の足はおぼつかなくなり、身体全体が震え始める。全身を覆う黒いコートは濡れて冷え切っており、風邪をひくのも時間の問題だ。
「安全な場所にでもお送りしましょうか?」
紳士的な頬笑みを浮かべたはずの俺のかを見て、彼は顔をしかめ、近くのベンチへと腰をおろした。
「お前の気遣いは嫌に気持ち悪いからなぁ……丁重に断ってやるよ……」
「……そうですか、残念です」
彼はこのまま放って置いても大丈夫な人だった。だから俺も、毎回このように置いてきていたのだが。
死を直前にしてまで態度を変えない彼の愛は、あまりにも、執着しすぎている気がする。
「……俺は死んでも良いから……アイツだけは……アイツの身体だけは……見つけてやってくれよ?」
「分かってますよぉ、それ何度めの頼み事ですか?」
丁重に葬送した本人が何を偉そうに。あなたが身体を見つけにくくさせた張本人なのに。
俺は微笑み、静かに、ラブコールへと問いかけた。
「これが、俺の仕事ですから」