複雑・ファジー小説
- Re: Love Call ( No.97 )
- 日時: 2011/09/30 21:30
- 名前: 葬儀屋 (ID: cX9VSRxU)
「ガイキー? あーいたいた。探したんだよぉ?」
蹲るガイキに私はそっと触れた。
「どうしたー? あーもしかしておなか痛い? 今日は冷静パスタだったからねぇ冷やしたのかもねぇ。私があっためようか?」
その身体が細かく震えているのが分かる。作り笑いを浮かべながらそばに寄り添った。
すると、ガイキの指が私の腕をつかむ。
こんな時のために、笑顔の練習しとくべきだったかな。
「私、五月蝿いかな?」
肯定。
「私、いない方がいいかな?」
否定……腕に絡みつく指が強くなる。
痛いよ、整えてない伸びた爪が食い込んでる。まぁどうでもいいけどさ、やっぱね、整えとこうよ。
「なんか嫌なことあった? 悪い夢見た? カラスの死体見た?」
何をどうやって声かけたらいいかわからない。でもなんか言わなきゃいけない。言葉が回らないけど、笑顔でごまかしたつもり。
「……あいしゃ……」
「アイシャ? 誰……それ」
「……今日……俺が……」
ガイキから漏れる言葉は途切れ、良くその意味が分からない。
ただ
「ゆっくり……話しても良いんだよ?」
君は今、すっごい不安なんだよね。
ニューの温かさが身体を温めていた。
「私……待つことすっごい大嫌いだけど、それが価値のあることなら待つよ」
分かっている。これぐらい、自分で解決しなければいけない。だって、俺が耐えきれなくてやった罪なんだから……。
「私もねぇ怖いときあるよぉ。そんな時はね、お人形さんと一緒にいたんだけど、そのお人形さんがホッカイロ付きでね、生きてるみたいにあったかいの。だから話しかけててたらいつか私とおしゃべりしてくれるようになるんじゃないかって……ま、馬鹿な考えさ」
そう。隣に温かさを感じるだけで、心が落ち着いてくる。
罪の意識が、薄くなっていく。
「駄目……アイシャ……俺が……」
俺の意識が薄くなってどうする。そうなったら誰がアイシャを救う。俺の中のアイシャはどうなってしまう。
「……俺、駄目……あったかい……とか……全部」
「そのアイシャって子、元の彼女?」
いきなりの問いに俺が飛びあがると、ニューはにたぁとあやしい笑みを浮かべた。
「ふぅ〜ん……そのアイシャって子が気ががりでおなか痛めたんだぁ。へぇ〜」
じろじろと俺を見渡すニュー。俺が何か言い訳をするその前に、ニューは話を切り出す。
「でもさ、その子とはもう干渉しないでしょ? 此処に来てから女の子がいたって言っても、アヤノちゃんだし」
ちょっとむかつくな。私、君のこと気にいってるのに。
「免疫がないわけで、どうせあやふやなうちに別れたから気になってるだけでしょ?」
俺は……そんなの違う。俺のせいで……俺の弱さで彼女は……アイシャは……。
「言っとくよ、彼女に気はなかったと思う。全くもって君に気はなかった、だから興味がなくなった瞬間にいなくなっちゃった。ね、
もう忘れたら?」
忘れたら、彼女は……。
絶叫と主に私は押さえつけられ、喉元をがっちりと掴まれていた。ぎゅっと縮まる気管は壊れた笛のような音を出す。
「彼女は……アイシャは……俺の……俺のせいで……だから……俺は! 俺だけは彼女を覚えておかなければいけないんだ! アイシャは……本当に、本当に俺を……考えてぇ」
苦しい。霞む視界でガイキを見ると、ガイキは泣きだしそうな泣かないような、色々な表情が混ざった顔をしていた。
「俺の弱さが彼女を消した……××した。俺は、彼女を愛していた。ずっとずっと一緒にいたかった。だから俺は……
彼女を食らった……」
「……っはあ!?」
いきなり気管に空気の塊が入り込んできて、少しせき込む。それもつかの間で、熱い衝撃が腕を襲った。
瞬間、筋が切れる感覚と強烈な痛みが押し寄せ、悲鳴も殺される。
「君は彼女に似てる。君が好きだ。だけど彼女を忘れるわけにはいかない。君がいくら彼女に似ていても、君は彼女じゃない」
確かに、それは正論だけど。君は私まで食らおうとしていない?
……ま、でもいいか。
馬乗りになられると、どうも反抗ができなくなる。静かに舌を伸ばし、私の傷口を舐めるガイキの眼は、人間ではなく、獣に近かった。
「これが君の最高の愛情表現なら……」
私は全てを受け入れるよ。だって、ガイキのこと、守りたいもん。さっきの「好き」って言葉、とっても嬉しかったよ?
「君はなんて不器用なんだろうね」