複雑・ファジー小説

Re: *鏡花水月に蝶は舞う* ( No.15 )
日時: 2011/07/31 17:00
名前: 琴月 ◆DUxnh/hEOw (ID: 3Yyu8DLY)

第三話 聡明剛毅

夢を見た。


気が付いた暁は、見知らぬ所へいた。
どこかの民家だろうか、ちりんと風鈴が鳴る。

「………」

そっと周りを見渡すと、後ろに誰かが居るのに気付いた。

男性が一人と女性が一人。そして、もう一人………

そのの視線の先にあったものは、

喋ることも出来ない小さな赤子。

すると、本当に小さく、声が聞こえたような気がした。

「———、この子を幸せに……」
「ええ。……守ってあげて。いつも、笑顔でいられる明るい子に……」

そう、赤子の両親であろう二人が微笑む。
そして………

「あぁ。命に変えてでも………守る」

優しい声音だ。
胸に響き、暖かい。
この声に包まれて。

あぁ、なんて……

なんて幸せな夢だろう……ーーーー


* * *

「ん………」

まだ重い瞼をのろのろと開けると、目の前にいたのは、

「あ、起きた」
「っ!?」

文字通り目の前にある顔。
見慣れない顔だが、会ったことがある。
忘れるはずもない。だって、彼は………


「のっ……離れろっ!」
「うおっ!」

反射的にガバッと起き上がり、彼めがけて鉄拳を叩きこむ。
が、それは疲労と空腹のため、めまいで前のめりに倒れてしまう。

「あっぶねぇ……俺がお前を助けんのは二度目だよな?」
「お前、志岐とか言ったか。なんでここに……」

ぎっと睨む暁に、その名を与えた青年……志岐は、困惑したように首を傾げる。

「俺は……私情でわざわざ江戸から歩いて来ただけだ。お前こそ、なんで京に……しかも倒れてたし」
「それは………」

本当の事を言えるわけもなく、ただうつむくだけの暁を見て察したのか、彼は話題を変えてきた。


「腹減ってないか?なんか食えるもん、持って来てやる」
「いらない。それよりここは……」
「俺がとった宿だ。ちょっと待ってろ」

早口で言ってしまうと、襖を閉めてどこかへ行ってしまう。

暁は大きくため息をついた。
本当は、今すぐにでも出ていきたい。
しかし、足が鉛のように重たくて、歩けそうにもない。
行く宛もないのに、わざわざこの足でさまようこともないだろう。

そこまで考えると、急に眠気が襲ってきた。
何日もろくに休んでいなかったせいかも知れない。


「おい、これなら食える……」


襖が滑らかに開き、志岐が握り飯を持って入ってきたとき、すでに暁は心地よい寝息をたてていた。


「せっかく持ってきてやったのにな」


ずっと何も食べていなかったのだろう。起きたら食べさせてやればいいか。

そっと握り飯を枕元に置く。

と、ふいに彼は険しい表情で暁を見つめた。

「悪かったな」

そう詫び、ふわりと彼女の頭を撫でる。
そして、再び襖の向こうへと戻って行った。