複雑・ファジー小説

Re: *鏡花水月に蝶は舞う* 新章スタート! ( No.52 )
日時: 2011/09/03 16:46
名前: 琴月 ◆DUxnh/hEOw (ID: 6ux8t0L6)

第二話 雲心月性


「うわぁっ!」
「ほらほら、あんまりはしゃぐと……」



————私、お外に行ってみたいです!


彩芽が玲のもとへ来てから数日後、ほとんど外の世界のいうものを知らなかった彩芽は玲へそう懇願した。

最初は、常識が通じない彼女を連れ出してよいものかと案じていた玲
も、彩芽の必死に頼む姿の前で折れてしまった。

少しだけ、それに自分もつけば大丈夫だろう。
しぶしぶ承諾したときの彩芽の顔は、本当に輝いていた。  


それにしても。


「ねえ、玲!これはなんですか?あっ、こっちも!!」
「おい……少しは落ち着け……」


これでは、幼子を見守る保護者ではないか。

興味深々といった程で、走り回る彩芽。
彼女の表情はくるくると変わり、可愛らしいと思った。 

おかしな気分だ。

偶然出会い、偶然人間へ変わり、そしてもう一度出会った。

たくさんの偶然が重なって、あの娘の願いは叶った。

あるいは—————


「あっ……!」
「っ!?」


彩芽が小さい悲鳴を上げる。
玲が息を呑んだときには、彼女の四肢が大きく傾いていた。


「いったたた……」
「大丈夫か!?まったく、まだ慣れてないんだからあんまり走り回るなって言っただろ」
「うぅ……ごめんなさい」


目に涙をためながら、腕をさする彩芽。
本当に子供のようだ。

純粋な、綺麗な心を持った子供。


「立てるか?」
「はい。大丈夫ですっ!こんなのへっちゃらです!」


彩芽は、にこりと目を細めて笑った。
そうすると、玲の頬も自然に緩んでしまう。

えらいえらい、とふわふわとした髪を撫でてやる。
くすぐったそうに肩をすくめる彩芽は、その手に自分の手を重ねた。

と、そのとき玲の視線が真横を向く。


「ちょっと待ってろ」
「?……はい」


玲は軽い足取りで、ある店へ入っていった。
言われたとおりにその場で待っている彩芽は、不思議そうに首を傾げる。

しばらくたって、手に何かを握り締めながら戻ってくる玲の姿が見えた。


「あの……どうしたんですか?」
「ん?これを買っててな」


ほら、と手を差し出す玲。
その手には、小さな可愛らしい簪(かんざし)が握ってあった。


「お前にやるよ」
「ええっ!?いいんですか?」
「ああ。といっても、お前の髪はまだ短いから……」


そう言うと、彼は自分の懐から金の入った巾着の中身を取り出して、その中に簪を入れた。


「—————お守りだ」


お前の髪が長くなるまでな。

彩芽はそっと巾着を受けとると、大事そうに胸に押し当てた。

嬉しい。

こんなにも私は幸せだ。

世界中のだれよりも。



「ありがとう、玲!!」



願わくは、この幸せな『夢』がずっと覚めないように————