複雑・ファジー小説

Re: 忘却少女と言無竜 ( No.4 )
日時: 2011/06/08 22:47
名前: うnDne+ (ID: 0bK5qw/.)

「こんな遅くまで、何処をほっつき歩いていたの?」

母──篭月千歳は咎めるような口調で亜鶴に問う。久しぶりにあった親友と話をしていた、とただそれだけ言えば済む話だった。だが、その意に反して、言葉は紡がれていた。

「別に。関係無いでしょ」

冷たく突き放す言葉に、千歳は呆然とした。千歳は亜鶴を心配していただけである。──そう、亜鶴への深い愛情故である。それなのに、亜鶴は素直になれなかった。これが、反抗期というものか。無性にイライラしていた。大きく溜め息を吐くと、立ち竦む千歳を残し、階段を駆け上がった。

「待ちなさい」

亜鶴は引き留めようと伸ばされた細い手から逃げるように、二段飛ばしで階段を昇る。角を左に曲がって、右から二番目の扉の取っ手を乱暴に掴むと、部屋に素早く入った。大きな音をたたせて、後ろ手に扉を閉める。煩いわよ、と千歳の声が聞こえた。が、聞いていないふりをする。そして、息を吐く間もなく、重い本棚を扉の前に移動させ、開かないように固定した。

多分、そのまま寝てしまったのだろう。──その後のことは、憶えていない。