複雑・ファジー小説
- Re: 妖異伝 ( No.5 )
- 日時: 2011/07/17 23:22
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: imShPjBL)
#01 ( 松林の少女 )
やけに小柄で色白く端正な顔立ち。
藍色の小紋柄の着物に黒色の袴、靴は漆黒の下駄という。
明治時代の学生を連想させる服装をした少年が浜辺を歩いていた。
彼の左目は漆黒の黒髪で隠しており、残された右目は不気味なほど、鮮やかで透き通る紅色だった。
髪は長髪で肩ぐらいまであり、後ろ髪を丁重に白い紐で束ねていた。
——— ふと、少年の足がぴたり、と止まった。
外は大雨で現時点で彼を濡らしているが、彼は気にせず立ち止まる。
浜辺のぐにゃぐちゃと酷く曲がった形で松だらけの林の奥に灯りが見えたからだ。
少年は再び足を進める。
向かう先は松林。松林に灯る光をあてに進めば、着いた場所は小さな茅葺小屋。
粗末な作りで年代を重ねてるであろう小屋だ。
誰かが住んでるのか、少年は小屋を背に去ろうとするが。
背後から箇所だらけの障子が開く音がした。
振り返れば、同じく少年と同い年そうな愛らしい容姿の少女が、随分、薄汚れた浴衣を着て、こちらを見ていた。
酷く身体が自由に言うことを聞かないらしく、ようやく障子全体を開けた。
「あら、お客様? 寒いでしょう、中にお入りなさい」
可憐な声。微笑む少女に少年は。
「————別に良い」
「風邪を引いちゃうわ、今は梅雨だもの」
少女に引き止められた少年は仕方なく粗末な茅葺小屋に入った。
中は調度品は無いに等しく床に薄い布団、漆黒の高級品であろう箱に折り紙と傍にその箱の蓋、数冊の本。
土間に古びたかまどと僅かな干物の食料品。
そしてかまどの横に大きな水瓶のみ。
部屋を見回す限り、どうやら両親は留守か居ないのか、少女独りのみだった。
そこで初めてある違和感を覚えた。
「ゴメンなさいね、お茶も用意できなくて。あたし、此処に一人で住んでるの」
「別に良いよ」
とりあえず少女は片足を引きずりながら布団のなかへ潜っていった。
どうやら身体が不自由な〝障害者〟らしい。
先程からゴホゴホ、と咳き込み、少年のほうを見て苦笑いした。
病を患っているのか。
だが、疑問が思い浮かぶ
。何故このような患者をこんな茅葺小屋にしかも粗末な作りでなかも粗末で調度品も僅かなものしかないのだろうか。
薬とて見回しても無い。明らかに異常な光景。
—— 少年は怪しいと読み首を傾げる。少女は布団に寝込んだまま少年に。
「あなた——お名前は?」
「ジュン」
「ふうん、あたしは宮本優子よ」
「………そうなんだ」
どうやら口調や名前からして名門か名家の出身の娘なのだろう。
だが、何故ここに病ならば実家で静養するか少なくとも別荘で静養する場合もあるのに、こんな粗末な茅葺小屋にいるのか。
大事な家族の一員をこんなに邪険にするのは何故か。
ジュンは疑問を思い浮かべたが少女は大して少年に気にせず自分の生い立ちを語った。
「あたしね、病弱でしかも身体が生まれ付き不自由なんだ。だから最初は別荘に静養させようとお父さんたちは思ったけどあたしの家ね、最近お金の出入りが激しくてそれに色々と忙しいから、こんな小さな茅葺小屋に静養することになったんだ、あたしも庶民という暮らしに興味あったから、とても嬉しかった。どんな生活をしているのか、味わえるもんね。ふふっ。だけど大変だわ、寒いんだもの、隙間から風が入ってくるし、だけど夏はすごしやすいのよ、お父さんはこの村の村長でこの村は正直に言うと少し貧しい、でも、お金にそんなに不自由はないし、それに豊富な海産物や上質な鯨のお肉と油が取れるから最近は逆にお金があるほうかな? とにかく村は今、少しずつ裕福になりつつあるの。それが—— あたしが病気になっちゃって裕福になりつつあるけどまだ貧しくてお金の出入りが激しいの。だから、仕方なくここで静養しているんだ」
時々様子を見に来てくれるから寂しくないの、と付け加えて少女は寂しげに笑った。
ジュンの目はとっくに無表情なのを知らず少女は箱から、折り紙を取り出した、鶴の折り紙だった。
それを大事そうに掌に乗せ、ギュッと握った。
その握った右手を胸にあてながら、酷く緩んだ表情で語りかけるように独り言を言った。
少年が聞いている目の前で。
少女は眼中にないらしくただ言い続けた。
「もうすぐ……逢えるよね、おばあちゃん」
酷く寂しげに聞こえる声だった。
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