複雑・ファジー小説

Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.100 )
日時: 2011/07/25 17:37
名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)

  #03 ( 再会 )


視界。辺り一面は猛吹雪で何も見えない。冷たい銀世界が広がっていた。
身を冷たすぎて逆に熱くさせるような、痛いような、極寒の地獄をただ二人で、黙々と歩き続けた。
まだ、目的地に着かなかった。
こうなれば、ある意味、嫌な予想が容易に思い浮かんだ。人間なら、絶望と極限の事態に絶望する出来事。
そう、遭難したのだろう。
彼等は人間ではない、死にはしないが、地獄なので当然、妖も苦しい刑罰に苦痛を訴える。
紅蓮地獄が苦手なジュンは苦心しながら、雪と格闘していた。
まだ、着かない。

「見えたぞ、あそこだ」

馬頭が見た視線の先に、宮殿。しかも、古代中国の王宮を思わせる造り。
絢爛豪華、それども、そこから響き渡っているのは………悲鳴だ。
気付くと、牛頭は彼を置いて自分勝手に宮殿を目指し、歩き始めた。
慌てて牛頭の後を追う。雪白な雪が、足に絡まり、埋もれて動き辛かった。
やっと牛頭のほうに辿り着いた時。

「遅いぞ、何をたるんでいるんだ。まあ…良い、入れ」

相変わらず、上から目線な口調で裏口と思しき、地味な鉄の扉を潜った。宮殿の中は廊下が先に続いて、和ろうそくが灯っている。
廊下は色んな部屋が戸を閉まられず、開いており、中から談話や飲み物をすする音、笑い声が絶えず、耳に届いた。
まるで、仕事を終えた人間の飲み会を見ているようだ。
廊下ですれ違う度、色んな種類の頭を持つ獄卒鬼の視線を感じた。相当、この事件は問題になっているらしい。
彼は密かに、苦笑いした。
しかし、長い廊下だな。とジュンは思う。先程から数十分も歩いているのだ。
いや、それは自分の勝手な解釈か、分からないけども。




            ○



馬頭が立ち止まった場所は、あるひとつの部屋だった。今まで地味な外見とは裏腹に、何処か威厳さを纏う雰囲気。
死者を裁く王を見て、震え上がる死者たちの心境が何となく分かった。
現時点、自分も緊張している。
胸が、鋭いやいばを刺されたと同じ—— 痛みを感じた。
馬鹿馬鹿しい、と鼻で無理やり笑った。
馬頭はそれを見咎める。

「何が面白い」
「さあね」
「おいっ……!」

馬頭が怒りに燃えたとき、扉が開く音がした。前を振り返ったら、目の前に馬頭と比べようがないと思うに相応しい高身長な男だった。
その衣服は威厳さあり、質素な—— 唐の官人。冠みたいな帽子の四つ隅に垂れ下がる紐で通した珠。
それらが、互いにぶつかり合い………じゃらん、と鳴った。


「閻魔大王様……」


馬頭はひざまずく。主人と奴隷、人間界の主従関係に似ているな、と思った。実際、見たことないが。
お前もしろ、と怒鳴られ、無理やり跪かれた。頭を強く地面に押され、息苦しい、と感じた。

「面を上げよ」

馬頭とまた違った偉そうな口調。顔は冠の影で良く分からないが、見た目からして男性だろう。声から多分、青年。
目が合った……気がした。
体が動けない、動かない。指ひとつさえ、動かせない。

「…………………ッ!?」
「君が—— ジュンか」

遥かに高すぎる身長の青年が、あっという間に自分より高いが普通の大人の身長になった。
その顔は予想通り青年。—— この世とは思えず、見惚れるくらいの美貌、美青年だ。
そして、何かが似ている。……そう、自分に。
目や鼻、唇、肌の白さ——— 全てジュンと似ていた。
柔らかく微笑んだ閻魔大王。その笑顔は……小さいころ、母に笑った同じ顔。

「………閻魔様………」

思わず、呟いた。自分と似てるが似ていない青年。
何処か、懐かしい。聞いた声がある、声。


(嗚呼………自分の声と似ているんだ)


心情、例えると水底に沈んだとき、薄れゆく意識の中で思い浮かんだ言葉と同じ、口に出さなかった声。
何故か、冥界の支配者である彼が自分と良く似ているのだろう。
傍にいる、馬頭も驚くで空気をあまり理解していないようだ。自分もそうだが。

「ジュン——— 涼太」
「……涼太」

自分の父の名前。死んだ父を裁いた閻魔大王だから、覚えたのだろうか。
彼がいちいち、裁いた人間を覚えているのか、疑問が浮かんだ同時、彼が口を開く。

「息子よ、良くこんな処に来てくれた」

抱きしめられた。頬を白い手で撫でられる。ふわっと少し短めの髪が、自分の頬に当たった。気持ちいい。
ふと、馬頭を見れば—— 正に開いた口が塞がらないとはこういうことなのだろう。口を開け、驚愕している。
自分も顔には出してないが、驚いている。
まさか、冗談だと信じたい。先程のこの馬頭がした—— 悪趣味な冗談だね、と呟いた。





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