複雑・ファジー小説
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.101 )
- 日時: 2011/07/26 20:54
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#04 ( 嘘つき )
「本当だ、僕は涼太だよ。……本名は閻魔だけどね」
目の前が暗く見えた。何だか体がふらついて、上手く立つことさえ、出来ない。
足が竦んで、覚束ない足取りになる。酷く体が熱い、身を焦がすような熱さだ。
息も息苦しくなった。——— 意識も薄れてぼやけてくる。睡魔が彼を襲った。目を閉じた。
そのまま、身体を閻魔大王に委ねる。冷えた体温ということは意識を閉じる前に感じた。
「ジュンっ!」
誰かが、自分の名前を呼んだ……気がした。
○
熱く息遣いも荒い。時折、咳き込む声も混じった。これは誰がどう見ても風邪の症状。
少年にしては広すぎる寝台に白い毛布一面に埋まったように寝かされていた。
熱くて意識もぼやけているが、ジュンの意識が戻る。
ゆっくり、と辺りを見回したら、脇に心配した様子の閻魔大王がいる。
自分の父親だと名乗った冥界の支配者。
すっ…と額に手を乗せる。
やはり、冷えた体温で体を冷やすには丁度良かった。
閻魔大王の隣に誰かいる……あれは、12歳のときに死んだ母だった。
「………!」
「起き上がらないで、寝てなさい。ジュン!」
起き上がろうとしたジュンを寝かしつけた——— 百合。
頭を撫でられたとき、思い出した。
「……………父さんは、………閻魔大王、なの?」
精一杯、振り絞って言った。百合はしどろもどろした様子で。
「………えぇ」
と言った。瞬間的に体が熱くなった。
風邪の所為でない。この熱さは何度も体験している熱さだ。
体も同時に震え出す。百合は何事だろうとジュンに手を差し伸べた。
パンっと軽い音がした。
ジュンが手を払いのけたのだ、忌まわしいという眼差しで。
「…………嘘つき」
低く冷たい声に百合はびくっと怯んだ。冷たい眼差しはずっと脇にいる二人に注がれていた。
目に、溢れださんばかりの涙。眉間に皺が数本、寄っている。
熱の所為か、怒りの所為か、体全体を震わせ、毛布をしっかりと握り締めている。
「嘘つき!嘘つきだよ!何で何で僕に今まで黙ってたの!?僕、一人でどんなに苦労して、嫌な思いをしてきたと思ってるのっ!何で父さんが、生きているなら、何で僕に早くその事を知らせなかったのッ………!ねぇ、どうして。どうして……騙されてたんだ、ずっと一人だと思ってたのに、父さんや母さんは地獄にいるんだと思ってたのに、仕方ないと、諦めてたのに」
思いっきり今までの寂しさや辛さをぶつけた。二人はじっと真剣な表情で無言だった。
「父さんと母さん………二度と僕の目の前に現れるなっ!この……嘘つきっ!」
怒り任せに熱で気だるさと辛さを抱えた体を無理やり起こして、部屋を出て行った。
背後から自分を呼ぶ、両親の声を聞こえない振りをし、ただ馬鹿広い廊下を駆け抜けていく。
足が覚束ないが、妖なので子供といえども、軽やかに宮殿を出た。
そのまま、銀世界の地獄へ、姿を消した。
○
数時間後にやっと地獄から現世に出られた。その時には辛さと熱で限界に近く、意識も余りない。
何とか、今日の宿を神社の中に入ることにした。神主はどうやら昼間を見る限り、留守のようだ。
巫女たちも離れにいるようで、早朝まで、お暇が出来た。
神社の中は質素でただ広く、夏のお陰で少し涼しい。
真冬なら、凍りつくような寒さの中、身を縮こまり、寒さを凌いでいただろう。
どちらにせよ、その間、両親は恵まれた環境で過ごしていたのだ。
自分は寒さや暑さはともかく、日本各地を旅しなけらばならなかった。
良く笑般若という理由で妖に襲われかけたりした。
また子供だからといって、人間に不審がられたり、警察に保護されかけたり。
意識が朦朧とする。目が重くて閉じられていく。
(嗚呼………)
最後に少年が何を言おうとしたのか。
それは意識を手放してしまい、分からなかった——
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