複雑・ファジー小説

Re: 妖異伝 ( No.103 )
日時: 2011/09/04 13:17
名前: 玲 ◆aBIq9yWij6 (ID: /iUvxDbR)

  #06 ( 戯れ )



目が覚めた。少年は気怠い体が軽くなったことに驚く。驚いたが、彼は滅多に表情を表すことはないけれど。
そのまま、不愉快な気分になった。何故ならここは神社の何処かにある部屋だからだ。神聖な物は妖にとって弱点である。
少年はふらふらと布団に寝転んだ。眠気は全くないが、気分の悪さで寝転ぶ他はなかった。
そこへ、障子が開いた。中に入ってきた人物は神主と陰陽師だった。

「ふむ、風邪は治ったようだな。そうか——………ここは不愉快だろうな、おい。何か部屋から出せる物はあるか?まだ死なれては困るから。……大石啓太郎、何をやってるんだ」



陰陽師が見つめる先に神主が必死で何かを引き出しに隠していた。
何を隠してるのか、視界を凝らしただけで見えた。顔が若干引き吊る。
陰陽師は何を見たんだと問いかける。
少年が言った。

「えーと……女の人が水着?というのを着て変な格好をしている本」
「………グラビア雑誌など読んでるのか?神主の癖に」

ジュンはその時、初めて神主というのは威厳があるとは限らないと学んだ。余計なことも一緒に学ぶ。
話題を逸らす笑いで神主の—— 大石啓太郎はジュンを見遣って言葉の先を繋げる。


「病気は治ったし、さあ、……陰陽師の雪宮庸明の実験体になってくれ!」
「断わるね。僕はもう行かなくちゃ」
「何処にだ?」


陰陽師の言葉で何も言えなくなった。
別段、彼にとって住むべき場所もないのは放浪の旅をしているからだった。
何処に行くつもりか。勿論、彼に検討すらない。だが、此処に居るのも妖として嫌いなんで適当に言い逃れる。

「そうだね、………出雲大社など、色んな観光名所でも見回る、かな」
「お前たち、妖は神聖な物は苦手なのに?」

もう、言い逃れは出来ないと悟った。とっくにこの二人は見抜いてるのだろう、自分が親が死んで天涯孤独な身だと。
笑般若族は、子供が出来たら親は一歩足りと子供の傍から離れない。だからこそ、彼が独りでいると十分、妖しいのである。
諦めたらしく彼は一息ついた後、言った。


「………分かったよ、気が変わった。協力しよう」












神社の庭で遊んでいる。今時珍しい格好をした少年は大きな下駄を引きずって蹴鞠を楽しんでいた。
一人だ。それを縁側に腰かけている男二人は虚しいという眼差しで見ている。
——— 実際、蹴鞠とは数人で遊ぶ平安時代の遊戯ゆうぎなのだから。


「虚しいな、おい。虚しすぎるだろ。誰か巫女の一人が来ねぇかな」

神主と思えない、口の悪さをさらけ出している。
彼は表の顔は上品で礼儀正しく紳士だが、裏の顔は口が悪く子供っぽい性格であった。
一方、陰陽師は物静かで冷静沈着な性格を醸し出し、いかに威厳ある男だった。


「妖と知りながら、誰が来ようものか。物好きは私等で良い」
「んまあ、結構な美少年君じゃねーか。羨ましい限りだねぇ」
「全くお前は神主として………」

神主らしくない神主を呆れつつ、陰陽師は少年を見遣った。
一人で蹴鞠する少年。足を振り上げる度、鞠は空高く飛んでゆく。
こんな休日を過ごすのも悪くない、と陰陽師は密かに思う。






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