複雑・ファジー小説

Re: 妖異伝 ( No.105 )
日時: 2011/09/24 21:47
名前: 芽衣 ◆aBIq9yWij6 (ID: /iUvxDbR)
参照: nameを芽衣と改名したョ!

  #07 ( 看板娘 )



「おい、ジュン。お前に頼みがあるんだけど」


——— 朝晩が冷え込み始めた九月の下旬。

今日は暖かな気候だったので、縁側に腰かけて庸明と一緒に紙風船で遊んでいた最中だった。
聖職者と思えぬ無邪気な笑みを浮かべて。
丁寧に手入れされた庭の砂利が下駄とぶつかって鳴り合う。
神主と有るまじき、煙草を吹かせている。
白い煙が風で流されていく。
庸明は見慣れた様子で、何だと問い詰めた。


「女装してくれ」


啓太郎の言葉を冷静に分析する。彼が自分に女装しろと頼んだのだと。
吸われてた煙草たばこを白石の砂利が敷き詰められた地面へ落とす。
下駄で踏み潰した。
まるで蛙を潰す子供のように簡単に踏んでしまった。
殺すか、と爪を伸ばす寸前、声を荒げたのは、庸明だった。

「お前は、何を考えてるんだ!」

同意。ジュンが庸明に視線を送る。
感じた庸明の同情めいた視線が、彼の中の何かを壊した。同情されるのは、嫌いだった。

「まあまあ、………小林さん、来てください」

裏口の扉へ呼びかける。
そうしたら、扉の向こうから巫女の一人で巫女のまとめ役の巫女、小林真理子が三人の前に現れた。
真理子がジュンをじっと見ている。
気まずい雰囲気の中で真理子がジュンの頭を撫でながら、小声で言葉を紡いだ。

「あなたが、噂の妖子あやかしこね?」
「あやかしこ?」
「妖の子供、という意味よ。まあ、可愛い女の子みたいな男の子ね?」

一番、自分の嫌な部分を突き付ける発言。ジュンの薄く無表情が、僅かに引きつった。
横を流し目で見ると、啓太郎は吹き出すのを堪えている。庸明の同情どころか、哀れんだ視線も送られている。

「さあ、行きましょうね」

最悪な言葉と共に廊下を引きずり出される。
後に残った二名。啓太郎は大爆笑し、腹を抱えて笑い転げている。
庸明は両手を合わせて祈る所作で、ジュンの健闘をただ祈るのみだった。







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