複雑・ファジー小説

Re: 妖異伝 ( No.106 )
日時: 2011/11/03 22:07
名前: 玲 ◆BX0AOw3PYo (ID: /iUvxDbR)
参照: 名前を元に戻しました。それと大久しぶりの更新、さーせん。

  #08[殺意と自暴自棄]


数十分後、ジュンは無事に女装させられた。白いワンピースに淡い水色のカーディガンを羽織った格好。靴は薄い茶色のロングブーツ。体格152センチの彼が着ると随分大人びた雰囲気を醸している。うん、と真理子は満足気に頷いた。そのまま、茶を啜る二人の元へ連れられる。
神主はジュンを一瞥し、微笑んだ。先程の本性を巧妙に隠している。

「なかなか、似合うじゃないですか。いきなり女装させたのは訳があるんです。協力してくれませんか。訳とは、実は参拝者の一人で古い友人の庸明君の家柄、良く陰陽師達の集会があるんですけどね、庸明君が、是非、同業者を騙してみたいと人間を思い込ませる術で君をジュン君を人間の女の子として連れて行きたいんです。……面白そうでしょう?」

悪戯した子供が、はにかむような笑顔。途端、言い返す気力が失せた。殺意と自棄に陥ったジュンは良いと返事し、それが、運の尽きだった。集会で彼の中で黒歴史、とインプットされる事を。

「じゃあ、行きましょう」
「……啓太郎、何でお前もだ」
「別に。長い付き合いではありませんか、お願いしますよ」

神主が神社を離れても大丈夫かは知らない。でも、二人に関係ないのでとりあえず、連れて行くことにした。外出する時、巫女が総出で啓太郎を見送って手を振る者もいる。まるで旅館の女将みたいであった。



陰陽師の集会場、庸明の家だ。なので庸明の家を入るジュンは途端から不機嫌になる。天敵の陰陽師が住む家だ。なので妖に当たるジュンは、酷く不愉快で場合には命取りになる可能性だってある。キリスト教で言えば聖水と類似するお神酒の匂いも辺りで漂っている。

「最悪だ。今すぐ何処かへ行きたい」

大きな門を潜った後、広すぎる豪邸と呼べる武家屋敷のような屋敷を、見回す。後ろを振り返って、閉じられた門を見ながら呟く。

「まあ、すまないな。人間に騙せる術は始めてだからばれるかも知れん。だが、同業者にばれても私が庇うから。すれば手出しも出来まい。恨むなら啓太郎を恨め。私は巻き込まれただけだ」

言い終えない内、家の玄関へ着いた。中へ入る。
ジュンに目眩が襲う。

「あ、妖魔避けの札を貼ったままだった」

妖魔避けの札を処分し、ジュンを背負ったまま、廊下の突き当たりまで歩く。陰陽師達が集まる部屋へ着いた。片手で障子を開けた直後、中の陰陽師達(主に老人ばかりで陰陽師である)が一斉にこちらを見た。
陰陽師達の中でも知恵袋的存在の今年八十歳の神宮寺武蔵(じんぐうじ むさし)が、低い声音こわねで言った。

「笑般若の子か、珍しいのう。結構な男前じゃな」

ひらり、とスカートが揺れる。引きつった表情が変わらないジュン。
庸明は苦笑いしつつ、ジュンを自分の席の隣へ座らせた。

「……やはり、ばれていましたか」
「馬鹿もん。全てお見通しじゃわい。それにしても愛想がない奴じゃ」

女中に出されたオレンジジュースをストローで飲んでる最中のジュンが中指を突き出した。庸明の持っていた湯呑みが机へ落とす。

「ふざけんなよ、クソ爺共め」

隣の啓太郎は大爆笑し、机を叩いている。空気は一変。啓太郎の大爆笑以外、しんと静まり返った。が、言われた被害者の神宮武蔵が爆笑する。釣られて他の者も笑い始めた。腹を抱えながら、ジュンの頭を撫でる。髪を乱さないように。

「威勢の良い子じゃわい。良い子じゃ、良い子」

暴言を吐き捨てた子に良い子な訳がない。人知れず(妖だが)呆気と取られる。ちなみに集会の目的を完全に忘れ、ひたすら、まるで孫を溺愛する祖父のように陰陽師達は啓太郎と庸明以外、ジュンを可愛がった。
しかし、大量のお菓子と世間話に昔の遊びを死ぬほどやらされたジュンが後に黒歴史とインストップされてしまうのだ。無念、それと同情を覚える陰陽師達だ。


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