複雑・ファジー小説
- Re: 妖異伝 ( No.23 )
- 日時: 2011/07/18 12:04
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: ICvI0sBK)
#02 ( 悪夢 )
真夜中。ベットに寝転がり毛布で包まりながら、独り空想するのを楽しむ少女。
将来の夢やら何やら自分の望みどおり思い浮かべて心を満たすのだ。
そうして辛い現実から忘れさせてくれる一時。
競争や名誉に地位。勝ち組負け組。成績や容姿、財産などと、社会は今住み辛い世界になった。
もう負け組の自分は、負け組のまま。あの子はこれから先も、勝ち組のまま。
少女が空想しているのは—— 殺人。
憎いあの子を自分で殺す空想だ。今の法律では13歳未満は少年院すら入る事も裁かれることもない。
例え14歳を過ぎても結局は少年法によって社会に厚く優しく守って貰え、いくら遺族が嘆き悲しもうとも、所詮、敵わぬ法の壁。
出所しても、そのころにはとっくに事件は忘れ去られ自分は名前すら報道していないのでばれる事なく幸せに暮らせるはずだ。
海外旅行も行ける、結婚もできる、仕事もできる、何をしたって自由。
(そうよ、全部あの子が悪いんだ。あたし、春山実花は悪くない)
(理不尽に蹴ったり、馬鹿にしたりするから……悪いのは夕菜よ)
猛烈に首を絞められる感覚に襲われた。
突然の事に驚きながらも、なんとか理性を保ち、首の締め付けられる感覚が何かを探ろうと手を伸ばそうとするが、動かない。
それどころか、体中が金縛りにあったのだ。
ピクピクと手が震えるのみ。目を開けようとしても開けれない。というか、開けることさえ出来なかったのだ。
ますます首を絞められる感覚が強くなる。
動きたくとも動けない体に、喉を中心に圧迫感が実花を襲う。
息が出来ないし、肺が空気を求めるが空気が肺に入る事はほとんどなく。
圧迫感と肺から空気を求めようとする動きで苦痛を味わう。
息苦しい、動けない。誰も助けてくれない———………。
「………があっ…………あ、が……………」
なんとか息を取り込もうとするも、喉が絞められては意味が無かった。
段々と意識が薄れていく。目を閉じたまま死ぬのはどういう事なのか、実花は、薄れる意識の中で思った。
——— ふと、首を絞める感覚が和らいでいた。
相変わらず目と体は動けず息もし辛いが大分できるようになった。
段々息がしやすくなり、最後は完全にできるようになった。
体もすぐ動き閉じていた目が開く。
すぐさま飛び起きるも部屋は暗く沈んだまま実花以外誰も居らず、カーテンはまだ夜を意味していた。
時間は何時だろうと見た瞬間。言葉を失った。
「…………は?」
時計はとっくに夜明けであるはずの7時を差していた。
カーテンの外は、まだ真っ暗のまま、誰も実花を起こしに来る者はいなかった。
パニックになりかける寸前のところ、ドアをノックする音が。
藁をつかむ思いでドアのところに行き、開けた。
ドアの外側にいたのは、母親ではなく———— 居るはずのない夕菜だった。
○
「きゃああっ!」
自身の悲鳴で完全に目覚めた。カーテンのほうへ振り向いたら、部屋から小さな日が差している。
完全に朝だった、今日は土曜だが、部活は顧問の都合上でない。
首を絞められるのは、全て夢だったんだ、と安堵しきった実花はふらふら、と覚束ない足取りでベットから降りた。
イギリス人である祖母の形見の大きな鏡。
壁に飾られて蔓や薔薇が咲き誇った何とも豪華絢爛で伝統的な大鏡を覗き込むのが実花の朝の習慣だった。
せめて夕菜よりも勝った気分でいられるからだ。
嫌な悪夢だったわ、と早朝から溜息を零した。
時計はまだ6時を差して、休日に起きるには早い時間帯だ。
眠気を抑えつつ、鏡を見て絶句した。
首に紅い手形があった、鮮やかに痣となっていた。
「…………やだ、何……これ……………」
震える声が更に震えさせた。足が竦み、遂にカーペットの敷かれた床に座り込んでしまった。
まだ震えがとまらない。
自分でも悪夢だと思っていたことが現実になっている。
信じたくない、まだ自分は13歳なのに。
実花は既に涙目になっていた。
床に座り込んでも、壁に飾られた大鏡は実花の上半身を映す。
その首に紅い手形がついたのを、くっきりと映していた。
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