複雑・ファジー小説

Re: 妖異伝 ( No.24 )
日時: 2011/07/18 12:09
名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: ICvI0sBK)

  #03 ( 覚めた夢 )



そこで実花の夢は途切れた。自分は今ベットに寝ている、夏用の毛布を身を包まってクーラーの効いた部屋にいた。
カーテンは既に日が昇り、時計を見れば12時だった。
そして自分の体が熱いこと倦怠感に襲われ、気だるい。
額に熱さましシート。
嗚呼、自分は夏風邪を引いてるんだった。と実花は思い出す。
それにしても、夢の中で夢を見るなんて変な夢だったわ、と実花は大きく溜息と脱力感でクタクタだ。
もう二度とあんな夢を見たくない。
誰でもそうだろう。あんな怪談じみた悪夢なんか。

そこにドアからノックが。お母さんが部屋に入ってきた。
手に持ってるお盆に風邪の薬と冷や水を実花のベットの隣に置く。
そして額に白く細い手を伸ばし当てた。


「大分熱がさがったようだわ、夜から泣きながら寝てて本当に心配だったわ。これでもう大丈夫ね、嫌な悪夢は忘れなさい、実花。嗚呼それとお昼、何を食べたいかしら?」


自分は永遠と悪夢に呻きながら寝ていたのか。
唖然とする実花だったが久しぶりに、うどんを食べたくなり、母に『うどんが良い』と言った。
うどんは母の得意料理で手要らずな為、機嫌良く部屋から出て行った。
それにしても、熱い。気だるさも手伝って全体的に体力が消耗してる、溜息を零した。

せっかくの部活の無い休日が台無しになった、と思ったがすぐ金曜日から、熱を出して寝込んでいたことも思い出す。
熱の所為か頭がふらふら、としてて記憶の混同が、あちこち見られた。


(本当に記憶が変に飛んでて嫌だなあ…………)


しかも夕菜が夢に出てきたのだ、友達かもしれないと人付き合いが苦手である実花が小学時代のときから、たまに遊んだりして普段は喋ったりする友達。
だけど夕菜は中学校に入ってから変わった。
今度は自分を、馬鹿にし始めたのだ。
それでも、優しい時や喋りかけてくれる時もあるけど。




(夕菜が悪いんだ、成績とかは自分の実力だけど………)
(だって夕菜は————)




目を閉じた。これ以上は思い出したくもない出来事を思い出してしまうからだ。
努力してもいくら努力しても報われない。
塾に通えど、先輩に自分なりに話しかけて、仲良くしようとしても、全て無駄に終わった。
スランプ。人生のスランプの壁に自分は立ち止まっている。夕菜はそれを楽勝に砕いたというのに。

——— 自分はいくつになっても出来損ない



体が熱くて今度は頭も熱くなり始めた。
苛立ちが、全身を熱くさせる。
怒りで眼一杯見開き、髪は汗で濡れ額に纏わりつく。
真っ白なシーツを強く握り締め、ギリギリとシーツを噛んだ。

他人から見れば実花の形相に驚くことだろう。
だが、実花は気にせず、年頃の娘かしらぬ思惑に捕らわれていた。
夕菜が憎たらしくて仕方ないのだ。
それはまるで嫉妬に狂った〝大人〟で〝女〟にしか見えない—— その時、誰かが部屋に入ってきた。


母がうどんを作って持って来たのか、ベットから上半身を起こしたら、いつの風の酷い夕方。
自分とぶつかった男子がドア近くに立っていた。
腕を組み、見下ろすような仕草。不意に実花を苛立たせる。


「忠告したのに」
「………は?」


いきなり人の部屋に来て訳の分からない言葉を言った少年。
実花は呆れと疑問でつい言葉を発してしまった。
本当に見知らぬ少年が自分の部屋にいる。
不法侵入だ、と実花は気付いたときには既に遅し。
少年は勝手にソファーでくつろいでいた。


「な……に、勝手に居座ってるのよ!! あんた、誰なの!?」
「——— ジュン」
「……ジュン?」


そうだよ、と少年はソファーから立ち上がる。
かこんと下駄が鳴った。ここは部屋なのに、靴のまま実花の部屋に入ってきたのだ。
唖然となった実花を他所にジュンはくすくす、笑い出した。


「何が可笑しいのよっ!」
「だってね………まさか、君が生きていると思ってるのが不思議でさ」
「はあ……?」


何を言うんだろう、自分は生きてるのに。実花が疑問を浮かべた瞬間。
少年の微笑はいつの間にか消え去っていた。
残るのは無表情の顔だけ。
ふと、実花は自分が風邪を引いたのに熱くも辛くなっていないと気付いた。
そして自分の服装が死に装束になっていることも。


「きゃああっ!」


驚いた実花は思わず転んだ。そしてベットに倒れ込む、毛布のある、ふわふとした触感が実花の体を優しく支えてくれるはず……だったのに。
毛布どころかベットの役割を果たしてないベットのようなものにある鉄でできた骨組みに当たった。
硬いのでぶつかると痛いはずが、実花の体は痛みを実花に教えない。

——— それどころか、透けていた。……自分が。



「きゃあああああっ!!」
「もう、演技はやめたら? 君はもう知ってるはずだよ、自分が死んだことにね」



ジュンの冷たい言葉が実花の心に酷く鋭い槍のように、突き刺さった。


















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