複雑・ファジー小説
- Re: 妖異伝 ( No.31 )
- 日時: 2011/07/18 12:26
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: ICvI0sBK)
#06 ( 曙光の空 )
薄暗くもうすぐ夜明けになる前の時刻。
静寂の廃墟に泣き叫ぶ泣き声、それと恐怖に歪みきった少年と少女の表情。
悲鳴と絶叫が鳴り響く。
紅く染まった地面に倒れこみ、そのまま動かなくなった二人—— 安藤夕菜と鈴木圭太の死んだ姿だった。
だが、それは事件当日を再現してるだけ。
いつまでも、二人は自身が被害にあった、この事件現場に留まり続けているのだ。
いつか、自縛霊になってしまう。
それは悲惨すぎる。
勝手に生命を奪われた挙句の果ての堕ちた姿。
余計に悪循環に繋げるだけだ。
もう、この世の住人ではないのに、執着し続けている二人に近づいた。
二人はビクッとこちらを振り向いた。
眼は怯えと恐怖が満ち足りてる。
ジュンは二人の肩をそっと置いて、戸惑う二人に言った。
「君たちはもう、ここに居ちゃいけないんだよ」
途端、目の色が変わった。
夕菜はきゃああ、と泣き叫んで髪を振り乱し突然胸元を掻き毟り始めた。
まだ現世の記憶が強いらしく胸元は紅い血で夕菜の指にからまり、血で真っ赤に染まる死に装束。
圭太も自身の腕を掻き毟り始めた。
紅い血が流れ落ちる。
決して地面を汚すことはなかった。
二人の絶叫と泣き叫ぶ悲痛の悲鳴が廃墟にて、暗く響き渡る。
ジュンの憐んだ視線に気づいた二人は交互に叫びに近い声で言った。
「私たちは、まだ死にたくなかった!」
「何で俺と夕菜が殺されなきゃいけなかったんだよっ!」
涙ぐみ悲痛の声が廃墟に響き渡った。
決して普通の人間には届かない悲願の声は人間でもあり人間でもないジュンたち〝妖怪〟等のこの世ならざぬものたちなら分かる声。
普通は人間に親しくする妖怪は一部しかいなくせいぜい騙して魂を食らう奴はほとんどだった。
だが、人間の血を引くジュンは違う。
—— つっと目を細める。実花の時とは違う、優しげな眼差しだった。
「だろうね、だけどやり直すんだよ」
「やり直す……?」
「どうすれば、良いっていうのよ……」
悲観にくれる二人。また目を開いたジュンは言った。
「本当は君たちは気付いているはずだ——— もうすぐ曙光が現れる」
廃墟から射し込む曙光。
二人はその曙光に近づく。
すると、ふわり。と二人は宙に浮いた。
そのまま曙光で出来た道を二人は浮かびながら、廃墟を少しずつ離れていく。
ジュンは真下で見守った。
「君たちはもう、苦しまずに———次の生を楽しむんだよ」
曙光はやがて消え去った。
ジュンが朝になった廃墟から、カラコロと下駄を鳴らしながら去っていく前に。
ふと、耳元で聞こえたあの二人の声。
『ありがとう』という感謝の言葉を後に、ジュンはまだ薄暗いところに身を隠した。
完結