複雑・ファジー小説
- Re: 妖異伝 ( No.37 )
- 日時: 2011/07/18 12:33
- 名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: ICvI0sBK)
#01 ( 奇怪な縁 )
酷く荒れ狂う大嵐の晩だった。
人が住むには頼りなさすぎる粗末な茅葺小屋が山奥に一軒、ポツンと佇んでいた。
外の小屋から見える仄かに灯っている、明かりが人が住んでる唯一の証拠。
小屋のなかでは女ではなく娘の年齢である、娘が独り縫い物をしていた。
グツグツと囲炉裏で煮えているものは初夏に僅かながら残ってた山菜の鍋料理だ。
美味な匂いが部屋中に立ち込めて、なかは案外囲炉裏の火と蝋燭の火だけで、中は見回せる程度。
娘は両親か夫くらい居る年齢なはずが、誰一人として部屋に居ない。
それは娘が独り暮らしをしてるという何よりの証拠だ。
この時代では異常な光景。
誰もが驚くだろう。
例外もあるが、とにかく異常だ。
娘は見目麗しく絶世の美女と呼ぶに相応しい容姿の持ち主でもあり、ますます、妖しさを匂わせる娘。
娘は人里なら奇怪で見られるであろう暮らしに何も思ってないらしく、気ままで自由に暮らしていた。
破れた箇所をようやく繕い終えたとき、…………グツグツと囲炉裏のものが煮えたぎる音がした。
娘はふらり、と立ち上がる。
と囲炉裏の火を消す—— スーッと囲炉裏の火は今まで燃え盛ってたのが嘘のように消える。
情けないくらい、大人しく消えたものだ。
娘はそのまま薄汚く穴を白い紙で防いだ所だけ真新しい押入れを開け。
中から薄い布団を取り出し、ぼろぼろになった畳の床に敷いた。
蝋燭の火を消そうとした矢先。
——— とんとん
土間と玄関を兼ねた古い木で作られた戸をたたく音が聞こえた、娘は嵐の音の所為だと思い。
気にせず、布団に潜ろうとするも、何度もした。
外からの〝何者〟かが戸をたたく音が。
こんな嵐の晩に一体誰が、と娘はようやく不審に思いつつも音のする戸に近づいた。
———— とんとん
やはり、誰かが居る。
大嵐の晩にしかもこんな山奥に旅人だろうか。
それは唯一の可能性だったので娘は恐る恐る戸を開ければ視界が捉えたのはとても美しい青年。
娘と同い年くらいの青年がいた。
服装からにして旅人に間違いない。
青年は困惑した表情で重く閉ざされた口を開く。
「夜分に申し訳ございません。どうか一晩だけ泊らせてください」
「あら、お寒いことでしょう。お入りなさい」
娘は特に青年を怪しがることなく部屋に迎えた。
青年は驚くものの娘は気にせず、先程作っておいた鍋料理を振舞おうとするも青年は『先に食べました』と断った。
娘は初めて違和感を覚えた。
夕方から酷い風で、山奥にまして外にいたなら、食えるはずがないと、何故ならこの山奥に住んでるのは娘一人だからだ。
————— 背後から冷たく突き刺さる視線を感じる。
「…………………っ!」
「動くな」
気付いたときには既に遅し。
娘の背後から羽交い締めして、娘は何一つ身動きが出来なかった。
動こうにも背中の違和感。
それは、冷たく鉄で出来た鋭利な——— おそらく刃物だろう。
娘は心底から舌打ちしたくなった。
それは年頃の娘とは思えない光景だった。
普通ならば、驚いたり、泣き叫んだりするものを。
青年もまた娘が泣き叫んだりしないのを承知で娘の体を固定する。
理由ならば嫌という程、分かっていた。
とにかく娘を始末しなければならない。
今は娘が不気味なことに身動き一つもしやしない。
「あんたがあたしに勝てるとでも?」
愛想良く出迎えた娘とは到底思えない、冷めきった声だった。
.