複雑・ファジー小説

Re: 妖異伝 ( No.39 )
日時: 2011/07/18 14:59
名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: ICvI0sBK)

  #03 ( 敗北 )

涼太が考案した内容に百合は絶句した。
何故なら自分と同居しろというのだ。
だが、それは機転となった。
いくら、札の力で妖力ようりょくが弱く余り使えなくても隙を狙えば、容易く殺せれるからだ。
内心喜びと涼太の奇抜さに呆れつつ、平然を装う。
—— しかし、涼太は告げた。


「ちなみにその札、剥がれるまでは僅かな妖力以外は使えないからね。例えばこの世ならざる者を見るとか予知とか、………そんな程度かな、有名な陰陽師さんに頼んで作ってもらったんだ、悪いね、そうでもしないと君が隙を狙って殺すに決まってるからね」


———— 目の前が真っ暗になった。

ガタガタ。先程から戸が揺れる音が、不思議と今は気にならなかった。
それよりも目の前の人間に告げられた事実が受け止めれず、冷たい畳へ座り込んでしまう。
ひんやり、とした感覚が今現在、今の現実を思い知らされせた。
すっと両手で顔を覆う。

大恥。笑般若、百合の一族末代までの恥。屈辱的な敗北だった。
それを……ただ無力な人間に負けるとは。
笑般若という妖怪で百合の一族は人間の所為で住処を失い、百合が最後の生き残りだった。
それでも他の一族がいるので〝笑般若〟という種族が途絶えることはない。
しかし、妖怪のなかでも霊力が強い種族だ。
人間の、しかも子供に負けるはずがなかろう。
同じ妖怪すら立場が高く強い種族なのに。

ふらり、と立ち上がった。
そのまま囲炉裏に行き火をつける。
火は勢い良く燃え始め、すっかり冷めてしまった山菜の汁ものの鍋を再び煮る。
数分後にグツグツと良い匂いが部屋中に立ち込めた。
欠けた茶碗で掬いとり、涼太に手渡す。箸も一緒に。


「食べな」


とぶっきらぼうに短く告げた。涼太は苦笑いしながらも、匂いを嗅ぐ。
なかなか食べようとしないので不審に思った百合が訪ねたとこ、やはり、予想通りの言葉が返ってきた。


「…………これ、人間が食べても大丈夫?」
「子供はそのまま食べるから。普段、料理するときは山菜や川で採れた食材で調理して食べているんだよ。普段山でしか食えないものもあるからいろいろと面白い生活になるだろうよ。あんたも変人だわ。何であたしになんかと同居する気になったんだい、札さえなければ今頃は食っちまったとこだ」


その言葉を涼太はふん、と鼻で笑った。
百合は『何だい』と不機嫌に問えば、誇らしげに言った。
それは百合の生きている間に考えられなかった予想外の言葉。
驚きのあまり、噴き出してる鍋を気に留めなかった。
唖然とする百合を余所に、涼太は囲炉裏の火を弱めた。
百合の体がプルプルと震える。

—— くすくす、涼太は静かに笑う。頬を紅潮させ、立ち上がった百合が怒鳴る。


「あたしが好きになっただってぇ!? —— ふざけてるのかいっ!」


目をキリキリと吊り上げ、涼太の顔の間近まで顔を近づかせる。


「ふざけてないよ。とりあえず……落ち着いたら? 足元がふらふらしてるよ」


くっ……と悔しげに呟いて座り直した。
札の効き目が相当強いらしく先程から百合は歩くだけでも、ふらふらとよろめく足取りになっている。
全ての元凶は、涼太だ。
当の本人は気にも留めず、寛いでいた。
本来は百合の家のはずだが、今日から涼太のものでもあった。



「とにかくよろしくね」
「………勝手にしろ」


振り回され疲れ果てた百合が言った。
相変わらず嵐は止みそうにない。




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