複雑・ファジー小説

Re: 妖異伝 ( No.42 )
日時: 2011/07/18 15:04
名前: 玲 ◆EzIo9fEVOE (ID: ICvI0sBK)

  #04 ( 仕事 )

紅く不気味な夕日が沈もうとしている夕方。
からすたちは巣のある山奥へ帰ろうと群れて飛んでいる。
山の入り口近くにある神社の境内、独りだけ遊んでる男児がいた。
友達は既に帰宅しており、男児一人だ。
両親は母親が病死、父親は今晩も遅いだろうと男児はボソッと呟く。
小枝の棒で地面で何かを描こうとするも。
何を描くのか、分からない。
男児は溜息をついた時。ゆらり、人影が男児の視界を捉えた。
顔を見上げれば、目の前に綺麗な女が、にこりと微笑んいた。

(誰なんだろう? この女の人………)

女は始終無言だったが、男児は不思議と警戒心が解れてく。
そこに男児はある事実に気付いた。
この女は見かけない得体の知らぬ女だと。
だが、その女は初めて男児にその薄く桃色の唇から、言葉を発した——。


「———— 君、早くお帰りなさい?」
「………僕、ん家……お父さんしか、いないから」


恥ずかしそうに言う男児。女はくすり、と笑った。
女に笑われたことで顔を紅潮させた男児の頭にふわり、と何かが乗る感覚。
すぐに分かった。——— それは男児の母親が昔に良くしてくれた行為だ。
そう、これは。男児は穏やかな表情になる。
女は優しく男児の頭を撫でた……はずが、男児の髪を鷲掴みする。
うわああ、と抗議の声を上げたら、女に睨まれた。
その美しい顔が冷たい印象を男児に与えた。

………女は相変わらず、くすくす、笑い続ける。
さらさら、下ろした髪が風がないのに揺れた。
辺り一面に女の髪が男児に巻きつき、黒く視界を遮断させた為。
自分がどの状況に置かれてるのか、分からず男児は恐怖で顔を歪ませ涙目になった。

相変わらず女はくすくす、笑う。———すると。


「だから、やめろと言ったはずだよ?」


男の声が聞こえた。途端、女の髪が元通りに元の長さに戻った。
女の顔は、やけに不機嫌な様子だと確認できた。
女に近づく男というか青年は男児に手を差し伸べた———— その手は、男児には救いの手に見えた。
すぐさま手に取ると、青年の背中に避難する。
女は襲おうとせず、チッと舌打ちした。


「全く………だから、食べなくとも生きていけるんだろ?」
「うるさいねぇ。あたしの勝手だろっ!」

「………だから、僕はお前が子供たちを襲わない為に人柱としてお前に食べられる予定だったんだ。そうだよ、僕はまだこの村人に正体が知られてないお前がもう子供たちを襲わないよう、人柱に選ばれてしまった不運な人間だ」


女はふん、と鼻を鳴らす。

青年はふっと表情が消えた。
視線は女ではなく———背中にいる男児。
男児はわなわなと体を震わせてようやく青年が、何者かを思い出した。
青年は罪人の子供だから、と男児は心の中で何度も呟く。


「そうだよ、お前らに村八分されて家族を亡くし、……生贄にされた涼太は僕のことだ」


酷く冷ややかな声だった。男児はようやく理解した。
自分は殺されるのだと。
涼太が生まれ育ったこの村は、涼太の家族を村の掟を仕方ない事情があるのにも関わらず、破った為、村八分した。
—— それで涼太以外の家族が次々と村八分ゆえに病気になろうとも医者に診せられることなく死亡。
生き延びた涼太はその頃、村を騒がせていた〝妖怪騒動〟を治める為に生贄にされた……はずだったが。

目の前にいる自分を食らおうとした。
人なざる存在の女と仲睦まじい。
ということは共謀しているのか。
村の子供たちを次々と食い殺し、食べ残しという死体をいつも山の入り口に捨てる妖怪と——仲間だったのだと。


「————— なら、食っちまっても、良いだろ?」
「ご自由にね」


相変わらず、不気味に微笑む女。
さらさら、と下ろされた髪が揺れた。




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