複雑・ファジー小説
- Re: 妖異伝 ( No.45 )
- 日時: 2011/07/18 15:28
- 名前: 玲 ◆j/SKQt9Lig (ID: ICvI0sBK)
#07 ( 虐殺の発端 )
それから死んだ涼太の亡骸を近くにある湖の共同墓地で密かに埋めた。
戻る途中、生まれた子供の為、この小屋で育てる事となった。
怒り狂う人間たちが小屋を見つけないと良いのだが。
それすら心配する暇も無く子供の為、時間を過ごしていった。
ジュンの頬を撫でる。柔らかく暖かい頬だった。
○
「ありがとうね、ジュンちゃんや、……ほら、今日は昼飯をあげよう」
月日は流れて子供は12歳になった。
亡き父と良く似た、両親譲りの美貌を持つ少年に育ったジュンは母親を養う為、良く人里に現れては働くようになった。
村人たちは最初は不審がり、色々と質問責めしたがジュンの狡賢さで村人たちは隣村の子供と信じた。
そして今日は、昼飯を貰う。
田植えをする際、稲の束を田植えする人に渡す仕事を終えたころ、あたりは昼頃になっていた。
手足は渡す際、ついて泥だらけになっていた。
そのまま村人たちに銭を貰い、山へ登っていく。
—— もうすぐ母が心配するころだろう。
母は自分が村人たちを脅かした敵なのだから。
それを知られれば必ず殺される。
横の繋がりが強い地域特有の現象できっと母が殺されたことは隠される。
あるいは自分も………殺されるだろう。
カラコロ、カラコロ。途中で田舎では聞きなれない音が山に響き渡る。
その音は少年の足元——— 草履から山道には決して向かない都会しか見れない華やかな下駄を引きずりながら歩いていた。
服装はただの薄汚くボロボロの着物から、藍色の小紋柄の着物に黒色の袴という服装に変化した。
カラコロ、カラコロ、カラン。
ピタリと立ち止まった。
先程から自分の後をつけてくる大人たちが怯んだのを見逃さず、すかさず逃げようとする大人たちに、くるりと後ろへ向き直し追いかける。
カラコロ、カラコロ。
下駄の音が煩い。
険しい山道を走るのに下駄は決して向かないのに、ジュンは容易くその大人たちを追い抜き、前に立った。
大人たちは主に初老の男や時に青年がほとんどだった。
誰もが手にするのは—— 木の棒や鍬に、何と斧もあった。
それらを手に持ち、殺気立った視線をジュンに容赦なく突きつける。それをするり、と交わし。
「………僕に何か用?」
「うるせぇ! 化け物っ!」
どうやら正体がばれたようだ。
前々から彼らが警戒心深いと分かってたジュンは顔色ひとつ変えず、武装している大人たちを見つめた。
母のした数々の行為は、彼らが怒り狂うのも頷ける。
—— だから、といって。
「僕の母さんを殺さないでよ………もう、食べてないのに?」
ジュンの言葉に大人は怒り狂った。大いにまるで猛獣の如く雄叫びを上げる。
理性のない獣当然だ。
何処か冷めた気持ちでしか彼らを見れなかった。
理由は分からない。
分からなくても良い気がするが……話は別。
今は怒りに身を任せ、自分を襲ってくる大人をどうにかせねば。
否。もうどうにも出来ない。
暴走した村人たちは調子に乗り次第に子供を始末できない苛立ちを些細なことで。
仲間であるはずの村人の一人を殺してしまったのだ。
それから、殺意は正当なものから——理不尽なものに変わる。
村全体が殺し始めたのだ。それを人里で祭られてる神木の枝に飛び乗ったジュンはただ大人しく傍観する。
母の復讐することも父の家族の——自分の祖父母や叔母叔父たちの為にすることなく。
ただ見守るだけだ。
事の発端となった母にも罪がある。
だからといって父たちに正当な事情があるにも関わらず、理解せず村八分し、生贄に詫びることもせず告げ自分たちは悠々と暮らせるはずがない。
母は村の子供を食らうのは、以前この村人たちにもう一人生き残ってた妹が勘違いで殺されたからだ。
母にも村の子供を襲う理由があった。
少なくとも復讐は世間から人間でなくとも同情できる理由だ。
………それなのに彼らは何も学ぼうとしなかったのだ。
全ての発端となったのは母でなく元は自分たちにあると何にも理解していない。
彼らは勝手に被害者面をして自身の弱さと卑劣さから逃げ続けた、罰が当たっただけだ。
——— それに、と呟く。
「極楽に逝ける、とでも思ってるのかな?」
カラン、コロン。
神木から飛び降りて地面を歩き、下駄が鳴り響いた。
それは山に入った途端、途絶えた。
少年は先日まで母と過ごしていた小屋に火を放った。
中には息絶えた母の亡骸がある。
火葬代わり、住んでいた証拠を消すためでもあった——火は勢い良く燃える。
少年が山の果実を採りに出かけた際、母は村人たちから殺されたのだろう。
今はもう予測でしかないが。
しばらくすれば骨だけとなった母を自分が生まれた途端。
すり替わるように死んだ父を、密かに埋葬して作った小さな墓標に母の骨と一緒に埋めた。
あの世で幸せになれば良いのだが……否、母は今頃地獄で転生を拒んでいると風の頼りで聞いた。
父は———分からない。
今頃は転生して次の生を受けてるに違いない。
「………母さん………父さん……………」
僕は孤児になったよ、と呟く。
そんなジュンを慰めるかのように風が、甘い花の匂いと届けた。
名前は分からないが母が好んだ淡い色の花が、ふわふわ、と甘い香りと共に花弁を散らしていた。
美麗な光景。
ふわり、と傍にきた花弁を掌に乗せる。
母の好んだ花。
また、ふわり。風と何処かへ……散った。
亡き両親の墓標をくるり、と背を向き、当てもないが、その場を去る。
今から自分で生きるしかない。
寂しく孤独な乞食のような生活が始まろうとしていた。
それでも、と再度呟く。
「母さんたちに逢える日が来ると……信じてる」
自由気侭な一人旅の始まり。
その後の村は風の頼りによると。
世間の多くの謎を残したまま廃村となり両親が眠る墓地に何故か村人たちが埋葬されることなく。
何処かの寂びた墓地にひっそりと埋葬されたという。
………それを世は自業自得という。
完結