複雑・ファジー小説
- Re: 妖異伝 ( No.52 )
- 日時: 2011/07/18 15:51
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#01 ( 鈴蘭畑 )
甘い香りが辺り一面に漂っていた。
女がつける香水に良く似た香りにジュンは顔を歪ませる。
甘ったるいが純白で控えな美しさを強調させている。
その小さな花—— 鈴蘭だけの花畑が広がっていた。
強い芳香がすると言われてるのでその匂いが一定の場所に集中すれば。
当然その匂いが不愉快で甘ったるくキツイ匂いへと変わる。
その時、くすくすと少女の笑い声が聞こえた。
……こんな場所に一体誰がいるのか、と覚束ない足取りで声のする方向に足を進めた。
下駄が鈴蘭を踏み潰す度、グシャッという潰れる音、と甘美な匂いが、込み上げる。
———— 女しか好まない場所で、うんざりした。
このまま引き返そうと思ったが、声が気になった。
ここは天国と地獄の狭間にある天国にも地獄に逝けない死者が、
さ迷い死んだことに気付かずたどり着く場所。
——— 境界の入り口だ。
「あなた、だあれ?」
「あなた、いつから居たの?」
ニコニコ、効果音が出るくらい、とびきりの笑顔で迎えた少女二人が、いつの間にか近くにいた。
あたしは里奈よ、と言った薄い栗毛でふわっと風に舞うセミロングの少女が笑った。
くすくす、一番嫌な笑い方で。
黒毛に短いショートヘアの少女も笑う。
「珍しい格好だね」
「本当、あたし、見たことないわ」
じろじろとジュンの服装を見つめる二人。
たしかに今時大学生の女性が卒業式に着るような女袴に良く似た格好のジュンは現代なら酷く目立つ服装だった。
お陰で今はこうして境界の入り口に日々を過ごす羽目に………そんな事情を知らぬ二人はお構いなしに。
『恥ずかしくないの?』や『何でそんな恰好をしているの?』と質問責めにされた。
ジュンはゆるり、するりと交わしながら二人にここにいる理由と問えば二人は互いに顔を見合わせ、苦笑いした。
……なにかが、引っ掛かった。
長くここにいれば、こういう反応もあるだろう。
しかし、来てから日が浅いように思える。
———— なのに、何故そのような反応を見せれるのか、ジュンは分からなかった。
「あたしたち、ここに来て偶然にも出会って仲良くなったの」
「そうなの、わたしね、里奈のお陰で楽しくなったのよ」
白くただ仄かに白く薄暗く静かで甘い香りが広がる空間。
鈴蘭畑に、妙に低いような声で二人がポツリ、と呟くように言った。
その目は何処かしら、死者にも生前の人生の影響であるであろう、生気が感じられなかった。
冷たく冷たすぎる、冷めた感じがした。
.