複雑・ファジー小説
- Re: 妖異伝(獣妖記伝録より、ゲストさま出演中) ( No.91 )
- 日時: 2011/07/21 16:27
- 名前: 玲 ◆PJzDs8Ne6s (ID: ICvI0sBK)
#17 ( 忘れた過ち )
「いやあああ!人殺し!私を殺す気ね!近寄らないでぇっ!」
追い払う所作をして後退りし、壁にごつん、とぶつかった。
叫ぶ気力があるなら、とっくに逃げられるのに、と三人は呆れ果てた。
何処までも、馬鹿な人間。
真実を分かろうともしない、自分が被害者だと—— 勘違いしている。
「今こそ、真実を知る時……」
すっとジュンは部屋のほうを指差した。死んだはずの二人が—— 立ち上がった。
その姿は白くぼやけて、目からは溢れださんばかりの血の涙。苦悶に満ち足りた表情。
人を恐怖させるに、十分な怖さだった。ゆらゆら、と揺らめくようで、二人は鈍い歩き出した。
「ひいいっ!?」
両手を口に覆い被さって、吊り上がった目をまんまると見開いた。
ゆらゆら、と揺らめいて、ふらふら、とふらめきながら、距離がだんだんと縮まる。
母である優子に甘えて駆け寄る子供みたい—— 二人は優子に近寄った。
「きゃああああ…!」
優子の腕をつかんだ。細くて痩せた腕。肉があまりないような腕だ。
それをつかんだのは—— 千代子と呼ばれた、娘。
ぼたぼた、と血が伝い落ちて、着物の袖を血で染め上げた。
「お前さんが、愛している……子供だぁ」
「お前は好きなんだろう?だったら、本望じゃないかっ!」
狐の男女が交互に言った。たしかに——……静太と千代子の姿をしている、〝それ〟はきつく握り締めた。
「痛いっ!」
振り払おうとするが、すぐさまもう片方の腕で、今度は右足をつかまれた—— 子供と思えない、猛烈な握り締める力だった。
静太の形をした、〝それ〟も、優子の左腕をつかんで、喉をつかんだ。
そして、びりびりと裂く音。……それは優子の骨だった。二人のつかんだ骨が、体から無理やり突き出して、出る。
「ぎゃあああああああああああっ!!……いだぁあっ!あががあ……!」
非常識な痛みが全身を電光のように、走った。白いというか青白い骨は床にがらんと落ちた。
飛び散ったのは、紅い血と……肉の欠片が、辺りに飛び散って散らかした。
「やめて、と言いなよ。………まだ、生きたいんだろう?」
少年の的ついた言葉で、痛みに涙目となりながら、こくんと頷いた。——— 戦争でなった、初老の未亡人。
上品な容姿、高価そうな着物が、今や、血で薄汚い、切り裂かれて、髪も結ったのが、分からなくなった。
………みすぼらしい女へと変わってしまった。
「まだ生きたいんだなぁ………だけどねぇ」
凛々しい表情になった。妖天に血眼となった目を差し向けた。優子は激痛に耐えながら、助けを求めた。
震えて、骨が取り出されて、半分しかなくなった腕を、差し伸ばした。その手を、何の迷いなく、妖天は払いのけた。
助けず、腕を組んで見下ろす。
侮辱だ、と何処か冷静になった優子は思った瞬間、ぐしゃっと音がした。自分の腕が遂に取れたのだ。
片手だけになった。もう片方の手も指先すら見えず、腕も半分だった。
骨はどんどんと、床に散らばる。
優子は、ただ絶叫をあげて泣き叫んだ。—— 二人も泣き叫びながら、優子の骨を奪い取る。
「…………がっ……が…………」
「どうだい、痛いだろうね。お前が全部したんじゃあないか?」
からん、と小気味に鳴った下駄の音。二人の脇にいたジュンは、優子の前に出た。
白目となりつつある、優子の目がジュンに、……ねっとりと注がれた。
不気味だな、とジュンが思うほどに。
まだ、残っていた青白い優子の喉を静太から奪い取って、持ち上げる。
「お前が、みーんな好きでやったんだ。お前がした過ちを忘れようとしたから、僕たちは思い出させたんだよ。さっきなら、まだ……遣り直せただろうに。まあ、死から免れないだろうけどね、当然……死刑だろう」
ぐっと指に力を込める。ぐあああ、と嫌な喘ぐ声を出した。
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