複雑・ファジー小説
- Re: よろずあそび。 ( No.17 )
- 日時: 2011/09/22 20:40
- 名前: カケガミ ◆KgP8oz7Dk2 (ID: WTkEzMis)
- 参照: 深夜のテンションがおかしい現在。
ティノ・レックスがこちらへ向き直ろうとするのを確認する。そのタイミングを見計らって、奴に駆け出していくジュンの背中目掛けて閃光爆弾を投げる。こうすればジュンの目まで眩む危険がなくなるのだ。
爆発、閃光。
すると奴は驚愕したように鳴き、目を背けるように身体を仰け反らせる。だが遅い。既に奴の網膜は焼けている。
ジュンは正気に戻ろうと必死に頭を振っているティノ・レックスの、がら空きの懐に入り込むや否や、その刀を存分に振り回した。
「倒れんじゃねぇぞ……?」
縦に、横に、袈裟に。
腕に、下顎に、胸に、首に、肩に。
斬って、薙いで、突いて、裂いた。
全身に返り血を浴びることも厭わず、ただ一心不乱に振るうその姿は、まるで狂人だった。
「ひゃはははははははははははははははははははははははは…………! 愉快、痛快、なんて奇怪ィ……! やっぱ狩るってのはこうだろォォ……!」
またトチ狂ってやがる。……そういう攻撃性のおかげで、楽な場面もあるんだけどさ。でもまあ、限度ってのもあるしね? ほら、ティノ・レックスだってもう何か動き出してるし。
「ジュン、そろそろ退いたらー?」
僕はせめてもの良心で忠告してみる。
だというのにジュンは一切耳を傾けず、何かに憑かれたように暴走していた。絶対聞いてないな、あれは。
もう放っといてこっちもこっちで準備してよう。そう思い、ティノ・レックスが突進してきたときのために、落とし穴トラップを自分の前方に配置した。
ティノ・レックスの網膜が修復し、奴の視界が元に戻った刹那——
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH…………!」
刀によって与えられた痛みを怒りとして、一気に爆発させるように吼えた。今までとは比べ物にならない、凄まじい轟音だった。
奴から結構離れた位置にいる、僕でさえ耳を塞がざるを得ない代物だ。至近距離にいるジュンなどひとたまりもない。
案の定、ジュンは刀を落として辛そうに耳を塞いでいた。ちゃんと忠告したのに。やっぱり無鉄砲はただの無鉄砲だったいうことか。
ティノ・レックスは咆哮の後、ぼろぼろの左前脚でジュンの右半身を狙った。
クリーンヒット。ジュンの身体が宙に浮き、力の法則にしたがって吹っ飛ぶ。
ろくに受身も取れないまま、地面に激突。そのまま二転三転と転がっていき、ようやく止まった。あの当たり方は、マズイ……!
「が……はっ……」
ジュンは苦しそうな声を出したまま、すぐに立ち上がろうとしなかった。——否、立ち上がることが出来ないのだ。遠くから見ても理解できる。ダメージが普通のそれではない。
ティノ・レックスの筋力を侮るとは迂闊だった。ジュンの猛攻で筋肉は既にぼろ雑巾同然だと油断してしまい、完全に嘗めきっていた。
奴は仕返しと言わんばかりに、顎を大きく開けてジュンに追い討ちを掛けようとする。
誰が、させるものか……!
ジュンとティノ・レックスの間に、先程と同じように閃光爆弾を放る。奴がもう一度目を眩ましている隙を見て、ジュンを助けてやらなければならない。
閃光爆弾が爆発し、眩い光が当たり一帯を照らす。これで奴も止まることだろう。
僕は爆発した後の光景を確信して疑いはしなかった。
——だが現実は、確信していたものとはまったく別のものであった。
奴は閃光爆弾が爆発する寸前、地面に右前脚をついてそれを軸にし、回転して閃光を見ないように身体の向きを変えていたのだ。
それだけでは終わらない。奴が向きを変えた方向はこちらである。そして、奴は遠心力を利用し、こちらへ向かって跳躍してきた。
狙いは、僕だったのか。そう判断し、仕掛けておいた 落とし穴トラップに誘い込むべく後ろに下がる。予定とは違うが、これで時間を稼ぐとしよう。
ティノ・レックスは僕の設置した、落とし穴トラップがある位置に着地する。
計算通り、奴は落とし穴トラップに引っ掛かって落ちる——ようなことは、なかった。
奴は落ちる間際、穴に落ちていく地面を素早くもう一度蹴り、僕の真上を越えてトラップをかわしたのだ。
反応して振り向くと、奴がいた。ティノ・レックスは既にこちらを向き、右前脚を振り上げている。
大楯を——駄目だ、間に合わない。
そう僕がティノ・レックスの一撃を覚悟した刹那——
「させるかぁぁぁぁぁぁぁ……!」
どこからか、ジュンでも、僕でもない声が響き渡った。
僕は声の主へ目をやる。
長い銀髪に、凛とした雰囲気を持つ勇姿。それはまるで、猛々しい白銀の狼のようだった。
白銀の狼は目にも留まらぬ速さで僕の前に立ち、振るわれた右前脚の一撃を、己の武器である変形斧で立ち向かって防いでいた。ぎりぎりと、力の圧し合いをする音が聞こえる。
それを目の当たりにして、僕は驚愕する。
「ヤ……コさん……」
呼ぶとおり、白銀の狼の名前はヤコという。彼女は、つい先日から共に狩りをするようになったばかりの仲間である。先刻まで戦闘に集中していたせいで忘れていたが、危機一髪という状況に駆けつけてくれたようだ。
兎にも角にも、助かった。
「キミは早くジュンくんの救援に行って! ここは私が食い止める……!」
僕の安堵は、彼女の怒号にかき消される。
しまった。そうだった。僕は何をグズグズしているのだろうか。すぐに心を緊張状態に戻し、ティノ・レックスの動きに注意しながらジュンの下へと向かった。
出来うる限りの速さで走り、息を切らせながら到着する。
「ジュン!」
見ると、彼は表情を歪ませながら右肩を抑えつつ、膝が笑っていてなお立ち上がろうとしていた。あれを直撃していても、辛うじて意識だけは残っているようである。
しかし、安心だけで済ませられる状態でもない。
「ん、あー。お前か……」
言っていることは飄々としていて未だ余力が残っていそうだが、顔つきを見る限りそう思えるはずがなかった。
顔から冷や汗、ないし脂汗がにじんでいる。相当大きな衝撃、ダメージだったのだろう。血色も火を見るより明らかに悪く、青ざめている。
「動かせる?」
「ちっ」
と、ジュンは悔しそうに舌を打つ。
「見りゃあ判ンだろ。……右腕が麻痺してやがる」
彼が必死に起き上がろうとするその様子を、僕は無言で眺めていた。
全く、何やってんだか。普段からあれ程言い聞かせておいたのに、ついさっきも忠告したばかりなのに、それを五月蝿いだの余計なお世話だの聞かなかったのが悪いんじゃないか。もう自業自得、同情の余地はないね。馬鹿は馬鹿なりに勝手にしてほしいよ、正直。
「……けどさ、」
そう言って、僕は立ち上がりかけのジュンの右腕を力強く引っ張った。
「それでもお前を助けてやりたくなる僕が、誰よりも一番馬鹿なのかもね」
助け起こされ、ようやく立ち上がることが出来たジュンは、僕に対して申し訳なさそうに——するはずもなく、ただ僕に右腕を引っ張られた際に走った激痛に対して悶えていた。
間違ったかな。……ここは左腕を引っ張るべきだったか。まあいいか、ジュンだし。
「……泣かす。テメェ後でぜってぇ泣かす」
目尻に涙を浮かべながら言われても、全然迫力ないんだけど。
「はいはい、とりあえずティノ・レックスを何とかしてから言ってくれよ」
僕は呆れ顔でため息をつきながら続ける。
「それに痛覚が残ってるのなら、一応は動かせるんじゃないの?」
「…………まあ、な。面倒だが何とかやれそうだ」
立ち上がりかけのときとは打って変わって、ジュンは不貞腐れたような表情を見せた。どうやら、それなりに回復はしてきている様子ではある。
それを確認して、僕は面白そうに笑う。
「じゃあ行こうか。いつまでもあの人に任せっきりじゃカッコわるいし」
呼応するように、ジュンも不敵な笑みを見せる。
「だな。……よし、行くぜ相棒。遅れンじゃねぇぞ!」
「こっちの台詞だよ……!」
僕たちは後脚に全力を込めて、ティノ・レックス目掛け駆け出した。
