複雑・ファジー小説
- Re: 白ずきんちゃんと。〜ワンダーランドの住人童話〜 ( No.17 )
- 日時: 2011/06/25 14:21
- 名前: 龍宮ココロ (ID: 6xS.mLQu)
- 参照: http://yaplog.jp/yukimura1827/
「すいません、これ位しかないですが…」
グーレンは少し経ってから部屋に戻ってきた。
少し早いお昼を持ってきてくれたから…って私のお腹が凄くなるから少し反省しているけども。
持ってきてくれたお昼はサンドウィッチ2個とデザートであろうフルーツポンジ。
「い…いいの?」
私がそう言うとグーレンはコクンと頷いて返した。
「せっかく貰った物は粗末にしてはいけない…よね?」と食いじる心ばかりでサンドウィッチを一口食べる。
するとシャリッとキャベツの音が鳴り、若干塗ったバターの塩味がまろやかでとても美味しい。
「美味しい !!」
「お口にあって何より」
ニコッとグーレンは微笑む。
その笑顔に少し私はドキッとした。
何故だろう…なんでこんなにも—— 男の人に意識してしまうのだろうか?
今まで男の人なんて怖い者ばかりだと思っていたのに、心が何故か意識してしまう。
そう思っていた私の方をグーレンは見て口を開いた。
「——…白ずきんちゃんは本当に綺麗、ですよね」
「—— !?? き、綺麗…!?」
「そ、そんな訳…」と私はたじろんだ。
ビックリした、行き成り「綺麗」なんて言われて。
そのたじろんでいる私の姿にクスクスとグーレンは笑う。
「いいえ、綺麗ですよ? 顔立ちも綺麗ですし、まるで昔の—— 兄の姿みたいです」
「え…?」
私の頭の中が一瞬止まった。
ゼルトの昔の姿が…私みたい?
分らないキーワードのような言葉が頭によぎる。
グーレンは少し苦笑して間を置いてから言った。
「おかしいでしょ? でも、本当なんですよ。兄は昔凄く女の子みたいで、今よりも凄く内気で何もかも信じられないけれど僕と一緒にいつもいたんです」
「……ゼルト、が?」
あのような元気な男の子が昔がそうだったとは私は思えなかった。
本当に半信半疑な気持ちになる。
少し困惑している私に少しまた苦笑して続けて彼は言う。
「えぇ…兄は凄くコンプレックスを抱えていて今では性格がぐれちゃってあのようになっているんですよ。でも僕はそんな兄でも昔から傍にいて兄弟としてとても大好きでした、今もですけどもね。…そんなコンプレックスを抱えて凄く内気で何もかも信じられない兄は—— ある人に“恋”を抱いたんです」
「“恋”……」
私にとっては遠い気持ちの存在。
“未だ知らない”そんな存在の気持ち。
お母さんは“恋”について「“恋”って言うのはね、幸せでもあり不幸でもある気持ちの一つなの。だけど、その気持ちが強くなるほど大切な事とか分ってくるのよ」って言ってた。
その時の話すお母さんの顔は、とても懐かしそうで少し寂しそうだった事を覚えている。
それを私は思い出しながらグーレンの話に耳を傾ける。
「はい、兄はその人が大好きでした。兄は“恋”を知り、大切な事を知ったようですぐに内気から明るくなって凄く元気で馬鹿にされないように努力してその人を振り向かせようとしたんです」
「……」
同じだった、ゼルトがその時考えていた気持ちが—— 今の私と重なる。
頑張って努力している、その気持ちが痛いほどに伝わる。
「でも、その人は振り向きませんでした…いや何かあったからこそ兄に振り向けなかったのかもしれません。兄は凄く落ち込んで一週間経ったある日から—— その人はもうこの地域には住んでいません」
「そんな…事が…」
ゼルトがとても可哀想だった。
せっかく頑張ったと言うのに—— 振り向かなかったなんて。
あぁ、私も同じなんだ…人から振り向いてもらえないのは。
「でも、兄は今は元気に復帰していますしそんなに気にする事では——」
グーレンは少し遠慮した顔で言うが、途中言葉を止めて少し間が開いた後驚いた顔をして口を開く。
「白、ずきんちゃん……?」
彼が驚いたのは行き成り私が—— 泣いているから。
私の涙はすぐに頬の上を流れ落ちる。
ギョッとしていたグーレンは焦っていた。
「ちょ、白ずきんちゃん…!? ど、どこか、痛いの!?」
その彼の言葉に私は首を横に小さく振った。
「違うの…、私…私はゼルトの気持ちが凄く良く分るのっ…。だから、凄く可哀想でっ…」
「……白ずきんちゃん」
「—— !!」
泣く私をグーレンはソッと優しく抱きしめる。
彼の優しい抱きしめ方は小さな背の私を覆いこむけれど—— 温かくて包容が感じられるとても優しい抱きしめ方だった。
———
小さく開いてあったドア。
その近くに隠れるように—— 俺は聞いていた。
「…馬鹿野郎っ」
小さくボソッとそう呟いた。
俺にはそんな同情なんていらない、この感情だって分りやしない。
そう思うとギリッと歯軋りをする自分がいる。
あぁ、本当に運命なんて最悪だ。
あの人を愛さなければ、俺は—— こうも思わないのに。
未だに心残りのある自分に顔をしかめその場を—— 後にした。
第10話「心残り」