複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.107 )
日時: 2011/06/30 21:57
名前: コーダ (ID: dfg2.pM/)

           〜拾壱目 柊樅霞の呟き〜

 人々が、中だるみする昼の時間帯。
 もう少ししたら、夕飯の買い物に外を出る主婦たちが目立つ。
 もちろん、城の方も警備員が中だるみしていた。
 しかし、ただ1人緊張感を持って行動しているものが居た。
 その名は、鉈崎 諺瑚。
 刑事は新しいメンバーと直接会話をして、少しでも信用を得ようとしていた。

「なるほど……これが飛竜か……。」
「ああ、この飛竜(ワイバーン)の名前はヴィラール……可愛いだろ?」

 矩樫は、隣に居る飛竜の頭を撫でながら刑事に説明をしていた。
 竜にしてみれば、少し小柄で、昔のプテラノドンくらいの大きさと言った方が分かりは良いだろう。
 とても硬そうな黒いウロコは、生半可な武器では傷がつかない雰囲気を醸し出し、鋭く尖った牙は、非常に恐ろしく見えた。
 この飛竜に乗り、矩樫は空を警備している。
 他にも飛竜部隊は居るが、今は休憩中だという。

「まさか、竜が居るとはな……書籍だけの生き物かと思ったぜ……。」
「無理もないな……竜を信じる奴なんて、片手くらいの割合しかいない……だけど、俺が生まれた地方じゃ、竜は大量に生息しているんだ。」

 矩樫は、諺瑚に竜は実在するという事を熱く証明させる。
 すると、ふと背後から「おやおや……こんな所で、どうしたのでしょうか?」と、馬に乗って甲冑を付けた男が現れた。

「刻杜か……別に、俺はただ刑事に、飛竜について説明しているだけだ。」

 矩樫がそう一言言うと、刻杜は馬から降り、2人の傍に来た。

「騎馬隊のリーダー、萩谷 刻杜か……そちらはパトロール中か?」
「ええ、場外に怪しい者が居ないか、チェックをしています。」

 刑事と同じく、自分の仕事はきちんとやる刻杜に、矩樫は「そんなに頑張りすぎると、体がもたんぜ?」と、茶々と入れた。

「あなたと違って、私はすぐに全体を見れませんからね……では、失礼……。」

 嫌味っぽい一言を呟いて、刻杜は馬に乗り、颯爽とどこかへ行ってしまった。
 諺瑚は「それなら、俺だってすぐに全体も見れないし、時間が掛かるぜぇ?」と、謎の対抗意識を持ったという。

「なんか悪い気がしてならないな……よし、俺も張り切って見回りするか!行くぞヴィラール!」

 矩樫は、刻杜と諺瑚の言葉に、少し罪悪感を覚え、颯爽と飛竜に乗り、そのまま大空へと行ってしまった。
 1人残された刑事は「次は楠美と狼鍍か……。」と、呟き城内へと向かった。


                 ○


「失礼する……。」
「あら?物騒な刑事さんが、私に何の用ですの?」

 城のある一室、刑事はコンコンとノックをしてぶっきらぼうに扉を開けた。
 部屋の中心で、高価な椅子に座って読書をしていた楠美が、すぐ目に入り思わず「育ちのいいお譲ちゃんみたいだな……。」と、心の中で呟いたという。

 そこから特に変わったことを話さず、いたって普通の会話をした2人。
 すると意外にも、楠美は昔、本当に城で暮らしていたことが分かった。
 だが、事情が事情なのだろうと、すぐに感じ取り、あまり深く突っ込みはしなかった刑事。

「まぁ、作戦ではお互い足を引っ張らないようにな……。」
「おーほっほっほ!私が皆さんの足を引っ張るわけがないですわよ!」

 よく、古典的なお嬢様がする高笑い(しかも、左手を自分の頬に持ってきてあのポーズもしながら)をして、楠美は自信満々に刑事へ言った。
 すると「けっ……。」と、一言不機嫌そうに呟き、部屋を後にしたという。


                ○


「後は狼鍍だが……どこに居るんだあいつは?」

 城の内部を歩きまわり、狼鍍を探していたが、どこにも居なくて途方に暮れていた刑事。
 だが、中に居ないという事は必然的に外に居ることになる。
 元々狼だし、室内は好まないのかもしれないと考えた諺瑚は、早速外へ歩き始めた。

 しかし、外に行って探しても狼鍍は見つからず、日が暮れてきたのもあり、とりあえず今は諦めた刑事。
 どうせ夜のミーティングがあるのだし、そこで話せばいいと思った諺瑚だった。