複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.108 )
日時: 2011/07/01 22:28
名前: コーダ (ID: jBxFHKzX)

 そんな中、宿屋に居た5人も、やはり少々中だるみをしていた。
 東牙は、エントランスの椅子に座りながら黙々と本を読み、蓮花は宿屋の台所とにらめっこをして献立を考え、佳恵は半強制的におつかいに行かされ、楓はこっくりこっくり座って腕組をしながら寝ており、樅霞は新聞紙を読みながらかりん糖を食べていた。
 これだけみると、かなり平和そうだが、ちゃんと5人は緊張感を持っているはずである。

 すると、ふと何かを思い出したのか、東牙は本をパタリと閉じ、隣に座っている樅霞に「すまないが、少し良いか?」と、周りには聞こえないように言う。
 雰囲気的に、けっこう真面目な話かもしれないと判断した巫女は、新聞紙を丁寧に折りたたみ、ぶっきらぼうに既定の位置に戻して「では、私の部屋で話すか」と、メガネをカチャッと上げて、そのまま2階へ向かった。

 そして2人が部屋に入るとすぐに話が始まった。

「昨日気になったことなのだが、佳恵さんの雪刀、俺の月刀、楓の花刀……それぞれ最初の文字を抜くと雪月花となる。これには意味があるのか?」

 メガネをくいっと上げて、東牙は昨日の疑問を質問する。
 すると「ふんっ……そんなことか?」と、少々馬鹿にしたような口調で樅霞は一言呟いた。
 そして「深い意味などない。初代柊神社の巫女が自分の作った刀の名前を語呂良くしただけだ。」と、目を吊り上げながら東牙に言う。

「初代の巫女が作っただと……この刀を?」

 疑問が無くなったと思ったら、また新たに疑問が出てきたので東牙は続けて質問をする。
 樅霞はやれやれと言った顔をしながら「仕方ない。この際だ……全て東牙に話そう。」と、苦虫を噛んだかのよう表情で言う。

「昔柊神社では、見世物と言う見世物がなく参拝客が全く来ない状況が続いた。そこで初代柊神社の巫女が、見世物がないなら作ってしまえばいい。というノリで刀を作ったのがきっかけだ……なぜか、鍛治の技術が身に付いていた初代巫女はたった1ヶ月半で、3本の刀を作ってしまった。」
「それが雪刀、月刀、花刀か……。」
「そして、そこから見世物として出来上がった刀を公開すると、巫女が作った刀とは縁起が良い。との反応があって参拝客が増えていったそうだ。もちろん中には、刀欲しさに来る輩も居た……だが、面白いことにそういう輩は鞘から刀を抜くことができなかったらしい。」
「ほう……。」
「いや、抜けないと言った方が分かりは良いだろう……まるで、刀自身が拒否しているかのようにな……。」

 この言葉だけを聴くと、柊神社の刀は生きているのでは?と思ってしまうが、冷静に考えるとそれはないだろう。
 所詮、刀は物質なのだから心を持つなんて不可能である。

「結局、初代の巫女は自分の作った刀を人に抜かれることなく他界した。時は少し経ち3代目の巫女が、この世に居た時にある事件が起きた……突然、夜中に3人の男たちが傷だらけで柊神社へ来たという。」
「………………。」
「この時、3代目の巫女は私と違ってかなり真面目な性格だったから、すぐに状況を把握して、何があったのかを男たちに聞いた。すると恐ろしい魔物に襲われたという事だ……そこで3代目の巫女は、その話を聴き終わるとなぜか3人に3本の刀をそれぞれ渡したという。」

 3代目の巫女はかなり賭け好きだなと心の中で呟く東牙。
 しかも、そのあと樅霞が付け足しで「もちろん、魔物退治は巫女の仕事だ。」という言葉で、さらにその巫女が賭け好きだとわかってしまった。

「いままで抜けなかった刀をどうして渡したのか……この時、3代目の巫女も分からなかったらしい。しかしここで奇跡は起こった……3本の刀は、まるで相手が見つかったかの様の勢いで抜けた……。」

 やはり樅霞が説明する刀は、どことなく生きている感じがする。
 東牙はふと自分の月刀を見てそんな事を考えていた。

「役目を終えた男たちは、神社に刀を返してその場を去った。だが、そこからまた刀は鞘から抜けなくなった……そしてかなり時は進む。6代目の巫女が、柊神社の巫女は、刀の持ち主が来るまでずっと守る。という事を決めてから、厳重に保管された……書籍で書かれているものはここまでだ。」
「……この刀は一体なんだ?」

 話が終わった途端に、東牙の真っすぐだけどかなり難しい質問があった。
 樅霞は眉間にしわを寄せ、かなり悩んで「生きている刀……。」と、小さく呟いた。

「生きている……どういう意味だ……だがどうやって……?」

 謎が深まるばかりの刀。
 どうやって刀に生命を宿らせる?どういう感じで生きているか?などなど色々な疑問が沸いてきた。

「すまない…これも私は明確には答えられない。初代巫女がそうさせたのかもしれないし、勝手に宿ったのかもしれない……だが、1つだけ言えることはある。東牙、お前がその刀に認められたなら、語りかけることで、疑問が晴れる可能性はあるかもしれん。」

 メガネをカチャッと上げ、東牙の顔を見ながら樅霞は一言呟く。
 確かにこの巫女の言っていることは正しい、この男は刀に認められた唯一の人物なのだから。
 東牙はこの言葉の意味をすぐに理解して「分かった……。」と、小さく呟いた。

「……正直、私の時代に刀を抜く者が居たとは思わなかったからな。あまり頼りにならないが、気になったらいつでも相談してくれ……。」

 チリン、久しぶりに聴く柊神社の鈴を鳴らしながら、樅霞は東牙に一言呟き、そのまま部屋から出て行ってしまった。
 東牙は黙ってその場で本を読みながら色々と考えていたという。