複雑・ファジー小説
- Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.109 )
- 日時: 2011/07/02 15:16
- 名前: コーダ (ID: H0XozSVW)
「うん、これだけの設備があれば大抵の物は作れそうね……後は、あの巨乳女が何を買ってくるか……。」
台所を全て把握した蓮花は、佳恵が買ってくる物に少しばかり期待をしていたという。
本当に、家庭的な少女で下心丸出しの男には勿体ない相手である。
「あ—!早く買ってきてくれないかしら!?」
「……そんなに怒鳴るなら、自分が買いに行けば良かったんじゃないか?」
蓮花が若干むしゃくしゃしているときに、丁度樅霞がやってきて途端に一言突っ込んだ。
これには思わず少女は、びっくりして反射的に杖を構えてしまったという。
「ほう……蓮花は魔法使いか?」
メガネをカチャッと上げ、樅霞は杖を凝視して一言呟く。
少女は「そうよ?私は魔女であり裁判官でもあり遺跡調査員よ。」と、杖を降ろしながら言った。
この言葉に巫女は、少々頭がごちゃごちゃになった。
そりゃそうだ、職業がこんなに重複していればどれが本職なのか分からないからだ。
ちなみに、蓮花はとんでもないくらいの遺跡マニアでもある。遺跡のある場所があれば、はしゃいで調査をする。本人曰く、歴史に触れられて楽しいとのこと。
「えっと……裁判官が本職よ。」
「そ、そうか……(この少女、無駄に職を持ちすぎだな……。)。」
やれやれと言わんばかりの顔をして、樅霞は壁に背中を預ける。
蓮花も近くにあった木の椅子に座って巫女を見た。
すると途端に、蓮花が「ねぇ。東牙と巨乳女と楓は刀で戦えるし、私は魔法を使えるわ……でも、あなたは一体何を使えるの?」と、戦闘面について質問をしてきた。
「ふむ……私は巫女だから、主に札を使った攻撃が得意なのだが……これは魔物、悪魔、天使専用だからな……人間には効果がない。だが、小さい防御結界くらいは張れるし、体力にも自信はある。」
「へぇ〜……防御系か……私もそれなりにそろっているけど、あまり期待はできないのよね。」
しばらくお互いの戦闘能力を確認し合っていた2人。
時には、札を見せたり軽い魔法も放ったりと色々なことをした。
そして話のネタが無くなり、次に蓮花が「樅霞って東牙に似ている。」と、ポロリと呟いた。
「……どうしてだ?」
「ほら、東牙はメガネをかけていてクールな男でしょ?樅霞もメガネをかけていてクールな雰囲気を出すから。」
この言葉に巫女は「私は常に素の自分を相手に披露しているのだが……私はかっこいいのか?」と、疑問気に答える。
「とてもクールよ!私ね、実はクールな人が好きなのよ……苦手だけど……。」
矛盾しているかもしれないが、実は全く矛盾はしていない不思議な一言。
樅霞は「ふふっ……なら東牙は、好きだけど苦手なのか?」と、ちょっと意地悪そうに質問をする。
これが思いのほか、少女の心を焦らせたのか「えっ!?ち、違うわ!私は東牙のことは苦手なだけよ!」と、身振り手振りを入れて否定する。
だが巫女は、メガネをカチャッと上げさらには、目を吊り上げながら蓮花を見て「嘘を言うな。」と、一言でバッサリと斬る。
「ううぅ……なんでそこまで自信満々に言えるのよ!?」
「顔に書いているからな。」
とても勝ち誇った顔で樅霞は、蓮花にこの一言をお見舞いする。
この瞬間、少女の頭の中では、昨日東牙と鳥居の下で話した出来事がよぎったという。
「まさか、自分も言われるなんてね……顔に出やすいのかな?」
「自分も?……まぁ、蓮花はよく顔に出る……隠し事、嘘は全く付けない人と見た。」
蓮花の人間性を少し理解した樅霞は、そのままエントランスの方向へ足を運ぶ。
そして最後に「あの男は、自分の命より蓮花の事を大切に思っているし、命がけで守りたいとも思っている……だが同時に、それはあの男の死をもたらす恐れもある……果たして運命は見守るか、見放すかどっちになるのだろうか……。」と、とても小さく呟く。
「えっ?なんか言った?」
「いや、これからが楽しみだな。とでも言っておく。」
メガネをカチャッとあげて、明るくこのセリフを言う樅霞。
蓮花は当然のごとく、頭の中にクエスチョンマークがいっぱいあった。
一体この巫女は、何を思ってこの言葉を呟いたのか。もしかすると樅霞には、これからどうなるかが、だいたい予想はついたという事なのだろうか。
○
「う〜ん……あ、あれ……もしかして、私としたことが昼寝をしていたのか?」
エントランスの椅子で、目を腕でこすりながら楓が眠りから覚めた。
こんな状況で昼寝をしてしまうなんて緊張感がない。と思ったのか楓は「はぁ〜……。」と、忍耐力の弱さに溜息をした。
「ん?起きたのか楓。」
「も、樅霞……もしかして、ずっとそこに居たのか?」
目の前で新聞紙を読みながら、かりん糖を食べている樅霞に、声をかけられる。
楓は昼寝を見られたのかと反射的に考えてしまい、こんな質問をしてしまった。
「ずっとではないが、ほとんどここで新聞を読みながらかりん糖を食べていたが?」
この言葉に楓は、お得意の鳴き声を出して耳も尻尾も心も落とした。
しかし巫女は「何をそんなに落ち込んでいる。確かにこんな状況だが、常に緊張感を持つなんて疲れるだけだ……緊張する所は緊張する。楽をする所は楽をする。このメリハリさえ、きちっとしていれば良いだろう?現に私は、大好物のかりん糖を食べているんだしな……。」と、かなり真面目な顔をして言った。
「……確かにそうだが、私のプライドが許さないんだ。」
せっかくの助言を楓は済まなそうに撥ね退ける。
すると樅霞は、メガネをカチャッと上げかりん糖を一口食べて「私の助言を活用するかしないかは、自分自身だ。別に私は何も思わん。」と、クールに一言呟く。
そこから楓と樅霞は、喋らなくなり、聴こえるのは新聞紙が次のページに開く音と、かりん糖をかじった時にでてくる音しか無かった。
「(どうして樅霞は、こんなに強いんだろうか……私とそんなに歳は変わらないのに……非常に落ち着いている。例えるなら東牙みたいに……。)」
楓は腕組をしながらその場にすっと立ち上がり、そのまま2階に向かった。樅霞はチラッとかりん糖を咥えながら見ては、すぐに新聞紙へ目を落とした。