複雑・ファジー小説
- Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.116 )
- 日時: 2011/07/03 22:04
- 名前: コーダ (ID: W4Fe.vPq)
〜拾弐目 それぞれの思惑〜
「お爺ちゃん……両親って……何……?」
「むむっ……そ、その言葉はどこから覚えたのですか!?」
小さい子供の言葉に、慌てる50代後半くらいの男性……私はまた夢を見ていた……。
「本からだよ……。」
「本ですと……東牙殿!迂闊に本など読んだらいけませんぞ!」
えっ……今“東牙”って言った……?もしかしてこの夢は……。
———————————————幼いころの東牙!?
「……子供には、お父さんとお母さんという両親が居るんだって。」
「そ、そうですじゃ……。」
「…………お父さんとお母さん……会ったことないけど……?」
東牙は確か、とても幼いころから両親を亡くしているって聞いたけど……本当だったのね……。
「……東牙殿は、もう父上を母上には会えないのですぞ。」
「えっ……?」
「東牙殿の父上と母上は、とっくの昔に亡くなられました。そうですの〜……東牙殿が生まれて、2ヶ月くらいじゃったかの。」
嘘……幼いっていうレベルじゃないわよ……それって、ほぼ両親が居ないと言っても良い状態……。
「そう……だったんだ……。」
「ですが、東牙殿には爺がついてますぞ!」
…………でも、東牙の方からあんたを突き放したけどね。
○
「………………。」
宿屋で起床する蓮花。
外は日が昇っているようで、昇っていないような時間帯。
少女は非常に悲しそうな気持ちになっていた。
「早朝から……酷すぎる夢だわ……。」
寝ぐせで若干乱れた頭を、右手で押さえて、ベッドから地面に足をつける。
「あいつ……両親の存在なんて知らずに生きてきたのねぇ……。」
ガチャ、蓮花は自分の寝室の扉を開けながらぶつぶつ呟く。
エントランスには誰もおらず、蓮花の存在は誰も認識しなかったという。
「……私、早く起きすぎたのかしら。」
思わずそう呟く蓮花。
誰も居ないんじゃ、楽しくもなんともない。
だからと言って、2度寝するにも微妙な気持ちである。
「はぁ……。」
浅い溜息をした蓮花は、とりあえず外へ出て行ったという。
○
「けっ……。」
一方、城の方では諺瑚が不機嫌そうに、外を1人でパトロールをしていたという。
「こんな朝っぱらからパトロールしろとか、ふざけんなよ……。」
不機嫌な理由は、どうやらとんでもなく早いパトロールに原因があったらしい。
実は昨日、夜尭に「明日からもっと警備を早くしてください。」と、言われて、渋々引き受けた諺瑚だという。
そして今、引き受けたことにとても後悔していた。
「早くしてくれって言われたけどよぉ……こんな日が昇っているかどうかわかんねぇ時に、パトロールとか誰が想像すんだよぉ……。」
諺瑚はそう言って、歩きながら懐から銃を1丁出し、その場で発砲しようとする。
—————————————————————カチッ。
刑事の右足が地面についた瞬間、わずかながらに聞こえた音。
もちろん、これを聞き逃すことはない諺瑚である。
「カチッだと……?」
とても嫌な予感がする諺瑚。
右足を地面についた瞬間、カチッという音。
とりあえず刑事は「迂闊に動かねぇ方が良いなぁ……。」と、その場に黙って立つことを選択する。
———————————————————10分。
———————————————————20分。
———————————————————30分。
すると、どこからともかく「あら?どうなさいましたの、刑事さん?」と、聞き覚えのある声が聞こえたという。
「けっ……楠美か、情けねぇ所を見られたぜぇ……。」
どうやら、たまたま外で散歩していた楠美が、ずっと動かない諺瑚を気にして声をかけたという。
「おーほっほっほ!まさかとは思いますけど、カチッという音を聞いて、動けないというオチではありませんこと?」
「ぐっ……。」
楠美の、ピンポイントな言葉に、諺瑚はグサリと何かが刺さった。
「図星ですわね。刑事の癖に、わたくしのトラップに引っかかるなんてお間抜けさんですわ。」
楠美は、やれやれと言わんばかりに刑事にそう言う。
この言葉に諺瑚は「すまないが……どうすればいいんだ……?」と、渋々この状態をなんとかしてくれと頼む。
「あなたはそこに立って、何分くらい経っていますの?」
「30分は余裕で経っていると思うぜ。」
「それならご心配なく。もうトラップは作動しませんわ。」
楠美の言葉に、諺瑚はその場から急いで離れる。
もちろん、彼女の言葉に偽りはなく、トラップは作動せず、事なき終えたという。
「刑事さんは運が良いですわね。ですが、次はそういうトラップとは限らないというのを、覚えておいた方が良いです事よ?」
楠美はそう言って、優雅にこの場を後にしたという。
どうやらこの城の敷地内は、トラップだらけだということを知る諺瑚。
「けっ……。」
諺瑚は不機嫌そうに、いままで歩いた道を引き返したという。