複雑・ファジー小説
- Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.124 )
- 日時: 2011/07/07 19:20
- 名前: コーダ (ID: QdojQKdf)
「…………東牙……?」
「……ん?佳恵さん……?」
昼間の城下町。
宿屋の屋根の上に、東牙と佳恵が居たという。
若干風も吹いていて、少し油断すれば、足を滑らせて屋根から真っ逆さまに落ちてしまう状況。
だが、東牙は黒いマントを風で揺らしながらずっと立っていた。
佳恵は和服ということもあり、少々屋根の上に立つのが難しかったが、なんとか東牙の近くまで行きそこにペタリと座ったという。
この姿を見た東牙は、黙って佳恵の隣へ行き座る。
「…………東牙?」
「……どうした佳恵さん?」
東牙は佳恵の方向へ首を向ける。
すると「…………いいえ。なんでもありませんわ。」と、呟く。
「…………そうか。」
「…………。」
ヒュ〜、2人の間に風が通る。
東牙のマントと、佳恵の長くて艶やかな髪の毛が揺れて、たまにマントと髪の毛が触れ合ったりもした。
「…………ふふっ。」
「突然なんだ?」
突然小さく笑う佳恵。
東牙は特に首の向きを変えずに、そう質問する。
「いえ……今、わたくしの髪の毛と東牙のマントが触れ合いましたよね?」
「……触れ合ったのか?」
そうなのかと言わんばかりの口調で、東牙は佳恵にそう言う。
「ええ。触れ合いましたわよ。」と、右手で口を隠しながらほほ笑む。
ヒュ〜、また2人の間に風が通る。
すると東牙は、佳恵の髪の毛を見た。
艶やかな黒髪が揺れ動き、髪の毛1本1本が繊細で、思わず触りたくなるような衝動にかられたという。
風が止み、ファサっと髪の毛が屋根の上に落ちるが、特に乱れた様子はなかったという。
東牙ははっと正気に戻り、佳恵にばれないように首を正面に向ける。
普段からおっとりしている佳恵は、東牙が自分の髪の毛を見ていたなんて思ってもおらず、何も言葉を言わなかった。
「…………さて。今日の夜……攻めるぞ。」
東牙はそう言ってその場から立ちあがり、今日の夜に城へ行くことを言った。
すると佳恵もつられてその場に立ち「と、東牙……。」と、言葉を呟く。
「どうした佳恵さん?」
「……東牙はあの城へ行って何が……したいのでしょうか……?」
佳恵の突然の質問に、東牙は思わず考える。
ヒュ〜、2人の間に風が通った瞬間、東牙は佳恵の方へ体を振り向かせ「俺は……あの城に昔鞘嘉多家に関係を持っていた奴が居ると刑事から聞いた……とりあえず、詳しい話を聞きたい。」と、答えた。
「そう……ですか。」
なぜか佳恵の体は震えていたという。
この変化にすぐ気付いた東牙は「どうした佳恵さん……?」と、質問をする。
「わたくし……やっぱり怖いのですわ……東牙が突然、復讐心に目覚めて人を殺してしまうのかと思って……。」
佳恵の言葉に東牙は何も言えなかったという。
確かに最近の東牙は蓮花、佳恵、楓、樅霞の支えにより、復讐心が前より消えて穏便に対処しようという心が強くなっている。
しかし、ふとしたきっかけで、東牙の復讐心に火をつけてまた前にみたいに、返り血を浴びて人を殺してしまう可能性もある。
何も言えなかった理由は、ここにあったという。
「復讐を話し合いで解決してこそ……わたくしの知っている東牙だと……思いますの……ですからお願いします……もう……人を殺すことは……しないでください。」
口を震わせながら佳恵は、東牙にたんたんと自分が伝えたい思いを述べる。
すると東牙はメガネをくいっと上げて「出来る限りの…努力はする。」と、呟きそのまま屋根の上から梯子を使って降りたという。
「断言は……できないのですね。」
佳恵は小さくそう呟き、自分の胸に手を当てて何かを思っていたという。