複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.125 )
日時: 2011/07/09 01:49
名前: コーダ (ID: 278bD7xE)

「東牙……。」
「むっ……楓……?」

 梯子を降りた時、東牙は不意に、楓に声をかけられたという。
 その目は少々獣っぽかったという。

「東牙と佳恵の会話…悪いが聞かせてもらった……なんだあの返答は……!?」

 楓は恐ろしい眼光で東牙に怒鳴った。
 もちろん、当の本人はどうして楓が怒鳴っているのかをすぐに理解して「今の俺には断言できる気持ちが……ない。」と、答えてそのままどこかへ行こうとする。

 ——————————————キン。

 楓は突然、花刀を鞘からだす。
 東牙は足を止めて後ろを振り向いた。
 そこには、完全に獣のような眼光で刀を構える楓が居たという。

「私の知っている東牙は……こんなんじゃない!」

 楓がそう叫ぶと、東牙に向けて一閃をする。

 ——————————————ガキン。

 東牙も自分の月刀を鞘から出して、楓の一閃を受けるが、あまりの押しの強さに、そのまま1mくらい後ろへ、弧を描きながら飛ばされたという。
 ドサッ、背中から地面に、思いっきり叩きつけられる東牙。
 思わず「くっ……。」と、一言呟く。

「断言してくれ……絶対に人を殺さないと断言してくれ!」

 楓の言葉に東牙は「俺だって……断言はしたい……だが……。」と、言う。
 もちろん、この言葉に楓は「うるさい!なにが“だが”だ!」と、叫び、そのまま仰向けに倒れている東牙に花刀を振り下ろす。

 ——————————————ガキン。

 とても不利な体勢で、東牙はなんとか右手で楓の花刀を受ける。
 しかし、楓は獣人で、力の方は人間よりも遥かにある。
 東牙の右手は、ものの5秒で弾かれたという。
 スッ、楓は東牙の首元に花刀を置く。
 そして「東牙……断言してくれ……。」と、小さく呟いた。
 だが、東牙はそれでも口を開かなかったという。

 ——————————————ポタッ。

「…………!?」

 東牙は突然驚いた。
 なんと楓の目からは涙が大量に流れていたという。

「なんで……断言して……くれないんだ!……断言してくれれば……ひっく……私は……東牙を止めるのに!断言してくれないと……どうしていいか分からないだろ!?」

 楓の思い。
 東牙は思わず「楓……。」と、呟く。
 そして10秒後、東牙は「分かった……俺はもう人を殺さない……絶対にだ……。」と、強く言う。

「東牙……。」

 楓は東牙の首元に置いた刀をそっと離す。
 すると「やっと……言ってくれましたわね……。」と、楓の後ろから佳恵の声が聞こえてきたという。

「佳恵……さん。」
「東牙……出来るかどうかわからない時は、あいまいな返事をしないでどちらかに断言しましょうね……。」

 佳恵の言葉に続いて楓は「そうすれば……自分の気持ちがモヤモヤしないだろ?それに……断言してくれれば……その人のこと支えやすいし……。」と、言う。

「佳恵さん……楓……。」

 東牙は小さく2人の名前を呟く。

 ——————————————パンッ!

 突然、背中を叩かれる東牙。
 あまりの不意打ちに体がよろける。
 すると「はいはい。これであんたの心もすっきりしたでしょ?」と、 腕組をしながら立っている蓮花が居た。

「蓮花……?」

 なにがなんだかよく分からない東牙。
 すると蓮花の後ろから「ふんっ……城へ行く前に、お前の気持ちを整理しておかないとな……。」と、メガネをカチャッと上げながら樅霞が現れる。

「樅霞……?」

 東牙の頭の中に、クエスチョンマークが何個も浮かび上がる。
 すると佳恵が「うふふっ……実は東牙の気持ちをはっきりさせるために、わたくしたちは演技をしましたの。」と、右手で口を押さえながら言う。

「まぁ……私と樅霞が出る前に、あんたは断言してくれたけどね。」
「全く……つまらん。」

 蓮花と樅霞は少々残念そうに呟く。
 東牙は「やられた……。」と、深い溜息をしてメガネを外す。

「何かあれば、私たち4人が東牙を止める!」
「もちろん、時と場合によっては無理矢理ね。」
「ふふっ…いざとなったら刀も出しますわよ?」
「覚悟しておけ。」

 この4人の言葉に東牙はメガネをかけて「蓮花、佳恵さん、楓、樅霞……その時は頼む。」と、素直にお願いしたという。
 そして5人は、そのまま宿屋へ入った。