複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.133 )
日時: 2011/07/24 21:19
名前: コーダ (ID: AfTzDSaa)

「よし!第2門、突破!」

 一方、東牙に置いて行かれた女性4人は、無事に第2門を突破していたという。

「どうせ、ここも大量のトラップが、埋められているに違いないわ。」
「慎重に進みましょう……と、言いたいところですが……。」

 佳恵はそう呟きながら、体を後ろへ振り向かせる。
 そこには、大量の追手が迫ってきており、のんびりしている暇はなかった。
 すると、樅霞が懐から1枚の札を出して、颯爽と第2門へ、黙って向かう。
 思わず蓮花は「ちょっと、樅霞!?」と、叫ぶ。だが、それでも樅霞は、一切、振り向きもせず走る。
 そして、樅霞は第2門の入り口で止まり、懐から出した札を、勢いよく地面に張り付けたという。
 ————————————————————チリン。
 ————————————————————「柊流、霊術結界……『護高結界壁(ごこうけっかいへき)』!」
 バチン、大量の追手が、第2門をくぐろうとした瞬間、見えない壁に、思いっきり弾かれたという。
 そう、樅霞は第2門の入り口を、とても大きな結界で塞いだのだ。しかも、ちゃんと高さも20mピッタリにする。
 この光景を見た蓮花は「すごいわ……これが、霊術……。」と、目を限界まで上げて、呟く。

「ふふ……この結界は、どんな衝撃が来ても、耐えることができる……そして、破る方法は2つ。1つは……私が解除するか。もう1つは……1週間経つ、だ。」

 カチャッ、樅霞はメガネを上げ、さらに、これでもかというくらい、目を吊り上げて、向こう側に居る追手に言う。

「これで追手の方は、心配しなくていいんだな。」

 楓は、腕組をしてほっと一息しながら、この言葉を呟く。
 —————————————————————ジャキン!
 —————————————————————「……!?」
 突然、何かが、楓の横を通った。
 何が起こったのか、判断できないくらい、一瞬の出来事。
 しかし、1つだけ分かったことがある。自分の左頬から、生温かい液体が、ドクドクと流れている事だけは。
 そして、楓はゆっくりと、後ろへ振り向く。
 そこには、自分と同じように、ふさふさした2つの耳と、獣らしい尻尾が生えていて、和服を着た男の獣人が居た。

「お前は……?」

 楓は、犬歯を出しながら、自分と同じような姿をしている人に、そう、尋ねる。
 すると、和服を着た獣人は黙って楓の方向へ体を向ける。
 片方の目が隠れるくらいの長い前髪が、第一印象に残り、次に残ったのは、充血しているように赤い瞳だった。

「グルル……貴様が……例の獣人か……。」

 おぞましい鳴き声をだす、男の問いかけに、楓は「例の獣人かは分からんが……私は、東牙と共に行動している狼だ……!」と、おぞましい眼光で、答える。

「狼だと……貴様みたいなやつが俺と同じ……?認めん……貴様は、犬で十分だ……!」

 この言葉に、楓の堪忍袋は完全に切れたという。その証拠に、完全に狼みたいな眼光になっていて、花刀を、鞘から抜いていたからだ。

「面白い……貴様も刀使いか……。」

 男は、先程、楓の左頬を斬ったであろう、刀を鞘から抜き、両手で持って、構える。
 そして、狼の瞬発力を活かして、一瞬のうちに楓の懐へ入り、刀を左上に、45度の角度で振る。
 ガキン、楓も狼の動体視力を活かして、なんとか男の一閃を、自分の刀で受け止める。

「くっ……なんていう……力だ……。」

 楓は、男の押しの強さに、若干負けていたという。
 このままでは、ラチがあかないと判断した楓は、とりあえず、自分の持っている刀を手放し、さっと横へ移動する。
 もちろん、これにより男は、勢いよく前へ倒れそうになるが、一瞬のうちに、刀を左手で持ち、右手を地面につけたという。
 この隙に、楓は手放した花刀を拾い、男との距離を5mくらい離す。

「ちょっと、楓!?大丈夫なの!?」

 蓮花は、少々息が切れている楓を心配して、そう叫ぶ。

「ああ……ちょっと油断しただけだ……。」

 楓が、蓮花にそう言うと、男は「油断……だと……?」と、呟きながら、態勢を整える。

「貴様……先のは、油断をしていたのか……?ふざけるな……狼なら、常に油断なんていう心は持たん……グルル……。」
「なんだ?なら、お前は普段の生活は、ずっと警戒してすごしているのか?」

 楓の言葉に、男は「当たり前だ……この、永俣 狼鍍……人生で、警戒を解いたことなど、1度もない……。」と、強く言う。

「そうか……だが、その考え……私、犬頌 楓は賛成しない……!」

 楓もお返しと言わんばかりに男へ強くそう言う。
 すると、蓮花は、すっと懐から杖を出すが、その瞬間。
 —————————————————————ドカッ!
 なんと、蓮花はいつの間にか、狼鍍によって、城壁に背中を叩きつけられるくらいの、攻撃を喰らっていたのだ。

「うっ……。」
「蓮花!?」

 佳恵は、城壁に叩きつかれた蓮花の元へ、駆け寄る。

「貴様……魔法を詠唱しようとしただろ……?俺の……邪魔をするな……!」

 どうやら狼鍍は、蓮花が懐から杖を出すという行動を見て、一瞬のうちに、脳内で、邪魔になると判断したらしい。
 そして、狼の瞬発力で、蓮花の懐へ1秒も経たずにたどり着き、刀の柄を使って右に跳ばしたという。

「お前……よくも蓮花を……。」

 楓はそう言って狼鍍に向かって一閃をする。
 ガキン、やはり刀で止められてしまう。

「グルル……ここだと邪魔が入るな……。」

 狼鍍はそう言って、右足を使って楓の足を思いっきり払う。
 バランスを崩されて、思わず転んでしまう楓。

「来い……貴様とは……1対1で戦う……。」

 気がつくと狼鍍は、高さ20mもある門の上で、腕組をしながら地上に居る楓に言う。
 もちろん楓は、この挑戦状を速攻で受け取り、狼鍍と同じく、高さ20mもある門の上へ跳んで行ったという。
 獣人は、非常に身体能力が高いので、これくらいの高さを、跳んで上るくらい、朝飯前である。

「全く……東牙といい、楓といい……せっかく考えた作戦を、忘れているな……。」

 樅霞は、門の上へ跳んでいく楓を見ながら、浅い溜息をして、小さく呟く。
 そして、壁に叩きつかれた蓮花の元へ、ゆっくりと向かう。