複雑・ファジー小説
- Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.137 )
- 日時: 2011/07/28 17:45
- 名前: コーダ (ID: n/BgqmGu)
門の上で、2人の獣人が刀を構えて、お互いをじっと見つめる。
その恐ろしい獣のような眼光は、気の弱い人が見ると、一瞬で気絶するくらいだという。
「グルル……。」
「ここまで、狼らしい獣人は……初めて見たよ……。」
狼鍍は、獲物を狙うと言わんばかりに鳴く。
楓は、少しだけ恐れながらこの言葉を呟く。
そして、狼鍍は楓の懐をめがけて走る。
ガキン、2人の刀が触れ合った瞬間、わずかな衝撃波が生じる。
それほど、お互いの力があったのだろう。
「くっ……。」
同じ獣人同士だが、やはり狼鍍は、男だけあって力の方はとてもある。
グイグイと押される楓。
このままでは、地面に押し倒されて、隙を見せてしまう。
だが、どうやってこの場を乗り切れば良いのか、全く思いつかない。
「(この状態をなんとか……する方法は……!?)」
楓の心の中はとても焦っていた。
このまま何も出来なければやられてしまう。
だけど、やろうにも何をやれば良いのか分からないという極限状態。
すると、ふと楓の脳内に、柊神社で、東牙と手合わせをした時の記憶が流れる。
あの時、自分は東牙を刀で思いっきり押していた。
心の中では、勝ったと思っていた、あの押し合い。
しかし、東牙は突然、地面へ自分から思いっきり倒れこんだ。
これにより、楓は前に向かって思いっきり倒れる。
「(……やってみるか……。)」
今は、あの時と逆の立場で、自分が押されている状況。
だから、東牙みたいに、楓は勢いよく後ろへ倒れる。
すると、狼鍍は案の定、前に思いっきり倒れこむ。
この瞬間、楓はさっと立ちあがり態勢を整え直す。
「くっ……小癪な真似を……。」
「これくらいしないと……お前には勝てないと思ってな……。」
狼鍍も態勢を立て直し、刀を構えて楓にそう言う。
この時、楓は思った。
——————————「こいつは、私と似ている。」
戦い方、刀の使い方、全て自分と似ていることに。
つまり、狼鍍は楓にとって、自分自身のような存在であった。
「(……こいつに負けると言う事は、私は自分自身に、負けるということか。だけど、逆に、こいつに勝てば……。)」
心の中で、そう呟く楓。これは、自分自身の戦いであると確信する。
「狼なら……正々堂々と戦え……。」
狼鍍は、鋭い犬歯を出しながら楓に強く言う。
しかし、当の本人は「正々堂々戦うのも大事だが……頭を使って戦うのも大事だぞ?」と、真正面から戦う事を好む獣人には、似合わない言葉で返す。
この言葉に、狼鍍は「グルル……。」と、鳴き、そのまま楓の懐へ走る。
いつもの楓なら、そのまま刀で受けるだろう。
しかし、それでは先と同じような結果となる。
一呼吸して、いつもと違う対処をしようと目を閉じて、考える楓。
「(……東牙と佳恵ならどうやって対処する……?)」
狼鍍との距離はどんどん縮まっていくのに、楓は冷静に心を落ち着かせて、ひたすら考える。
だが、狼鍍は楓の行動に、全く違和感を思わなかったという。
「(……!?)」
楓は、突然何かを閃く。
そして、花刀をぎゅっと両手で握り、構える。
ゆっくり目を開けると、そこには狼鍍が、今にも刀を振り下ろそうとしている。
その時楓は、いきなり狼鍍の懐へ、とてつもない早さで向かった。
「……!?」
カラン、突然狼鍍は、刀を地面に落として、後ろへ弧を描くように3mくらい跳んで行ったという。
「モーションの大きい行動はやめておけ……。」
楓は、犬歯を出してやってやったと言わんばかりの表情で言う。
狼鍍が、刀を思いっきり振り下ろす動作をしていた時に、あえて素早く相手の懐へ向かった理由。
それは、相手の隙を突くために計算された行動だったという。
狼鍍は、楓に向かって、思いっきり刀を振り下ろすモーション。
つまり、それは両手が頭の上にある状態で、懐あたりはガラ空きである。
楓は、そのガラ空き部分へ思いっきり体当たりしたのはそのためである。ただし、もう1つ考えがあった。
狼鍍は、楓の位置を確認して刀を振り下ろすタイミングを絶対に計っていたと思う。
だから、その計算を狂わせるため、刀を振り下ろす瞬間に、楓は突然、勢いよく前へ向かったのだ。
おそらくこの行動は、東牙がやりそうだな、と思って行った行為である。
「……貴様……。」