複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.26 )
日時: 2011/07/02 21:54
名前: コーダ (ID: H0XozSVW)

「面白い情報は、なかなか、なかったな……。」
「ふむ。だが、どうしてあの城について、聞きたいんだ?」

 空が、茜色に染まる時間帯。
 東牙と楓は、昼間ずっと、情報を探していたが、思いのほか、収穫がなく、こうして宿屋に戻っていた。

「いや……ちょっと気になって……。」

 東牙は、窓を開け椅子に座り、何か考えながら、このセリフを言った。
 すると「もしかして、あの城に入りたいのか?」と、楓がベッドに座って、外を見ながら、考える東牙に言った。

「まぁ、それもある……ただ、心配なだけだ……。」

 また、意味深なことを、言う東牙。
 しかし楓は「何を遠回しに言っている!?はっきりしないか!?」と、じれったい東牙に、一言、怒鳴った。
 これには、思わず表情を変え、びっくりしたが、すぐに落ち着きを取り戻し、ふっ、と笑い。

「やはり、楓は獣の血が宿っている……回りくどいことは嫌いで、真正面な生き方……俺は嫌いじゃないが、それだと、騙されやすい人になるぞ?」

 一言、楓に言ったが「東牙のような人間は、胡散臭く見られて、好かれないぞ?」と、次に彼女が、東牙へ返した。
 すると「……俺は嫌われてなんぼだ。」と、少し、小声で呟いた。
 楓は、こんなセリフを吐いた東牙に「全く……自分を自分で、嫌われたほうが良いなど、言うな。それは、自分自身を完全に不定していることになるぞ!?」と、どこか聞いたことあるセリフを言った。

「……まさか、そのセリフを、自分が言われるなんてな……すまない。」

 東牙は、まさかの言葉に、少しグサリと心に来たのか、素直に謝り、先ほどの言葉を撤回した。
 楓は「それで良いんだ。」と、言って、この空気を戻した。

「じゃあ、素直に言う。実はあの城には、俺の知人が捕まっている可能性があるんだ。」
「何!?それは本当か!?」

 城を見ながら、東牙は気になっていることを、素直にいう。
 すると楓は、慌てて、早く助けた方がよいという、雰囲気を出していたが「だが、これはあくまで可能性なんだ。」と、東牙は、楓を落ち着かせるため、もう1回言った。

「そ、そうか……だから今日、昼間はずっと城のことを……。」
「……とりあえず、俺はしばらくその調査に行動して、噂が本当ならあの城に行って、何が何でも知人を助ける……。」

 東牙は、これからの行動を少し、簡単に説明した。
 そして、重大なことを楓に言った。

「だから……楓とはもう少しで……共に行動ができないんだ。」

 そう。これはあくまで東牙の事であり、関係ない楓を、巻き込みたくないという一心で、このセリフを言った。
 もちろん楓は、東牙が言った言葉の意味が、分かっていた。
 しかし「何を言っている……私は、命の恩人が困っている所を、ノコノコ引き下がるような狼ではない。」と、獣のような眼光で、東牙を見て強くこのセリフを言った。
 だが、この男も、いままでにもないくらい、目を吊り上げて「それは、俺の巻き添えを食らうという意味なんだぞ……分かっているのか?」と、声を太くして言った。
 しかし楓は「かまわん。命の恩人が助けられるなら。」と、一歩も引きさがらなかったという。

 すると東牙は、突然、黙ってベッドまで歩き、そこからしゃがんで、ベッドの下に手を入れた。
 そして、そこからとても長い刀を取り出し、楓に渡しては「楓の覚悟を知りたい。今から俺を斬れ。」と、強く言ったのだ。
 普通なら、少々慌てて訳を聞くが、楓は黙って刀を鞘から抜き、両手で構え、思いっきり東牙を斜め45度に斬りつけた。

 ————————————————ガキン。

 部屋の中からは、刀と刀がぶつかる音が、とても綺麗に響いた。
 どうやら、楓の一閃は東牙に当たる寸前で、止められたみたいだ。
 そして東牙は「合格だ。」と、一言つぶやき、刀を鞘に戻しては、そのまま椅子に座り、懐から本を取り出し、黙って読書にはいる。
 すると楓は「なぜそう思った。」と、合格にした理由を尋ねる。

 本を、パタリと閉じ、茜色の空を見ながら「簡単だ。本当に俺を殺すと言わんばかりに、斬りつけようとしたからだ……あそこで手を抜いたら、その時点で、度胸がないと判断し、不合格にした。だけど楓は、刀が1番斬れる角度、45度で斬りつけて、さらには、獣のような眼光をしていたからだ……ここまで言えば納得か?」と、長々と理由を言った。
 もちろん、楓は納得して、自分も長い刀を鞘に戻し、ベッドに座った。

「今日の夜。少し城を偵察するが、もちろん行くよな?」
「もちろんだ。命の恩人が行くと言うなら、私はどこまでもついていく!」

 楓は、犬歯を出して、東牙についていくと決めた。
 東牙は「ふっ……。」と、笑い、読書を続けた。
 しかし、彼の心ではなぜか「すまない……。」と、いう一言が呟かれていたという。