複雑・ファジー小説
- Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.29 )
- 日時: 2011/06/26 20:29
- 名前: コーダ (ID: 46ePLi3X)
〜四目 裏切り裏切られ〜
少々、曇っていて、雨が降りそうな城下町。
こういう日は、あまり目覚めが、よろしくないという人が、たぶん多いだろう。
もちろん、宿屋に泊っていた、この男も。
「……今日は、目覚めがあれだな……。」
目を開けて、薄暗い部屋に、東牙は、ちょっと気分が不機嫌だった。
そして、起き上がろうと、全身に力を出したが、なぜか、起き上がらず、どうしてか原因を調べていたら、そぐそばに居た女性が犯人だった。
そう、楓が東牙を見事に、固定していたのだ。
これにはたまらず「おいおい……。」と、寝ながら呟いたが、さすがに無理やり起こすのは、かわいそうだと感じて、ただ黙って、楓が起きるのを待っていたという。
そして「う〜ん……。」と、楓の目が開き、すぐに、隣に居た東牙を見て「おはよう東牙。」と、さわやかに、挨拶をして何事もなかったかのように、起き上がって、床に足をつけた。
東牙は「この事態を忘れて、キャーキャー騒ぐ女性じゃなくて助かった……。」と、やけにリアルな思いを、心の中で呟いたという。
「あっ、言い忘れていたが……わ、私……男と一緒に寝たのは……初めて……だから。」
赤面交じりに、一言言った楓は、顔を洗いに部屋を出て行った。
これには思わず「俺だってそうだよ……。」と、小声で、突っ込んだらしい。
○
「で、今日の何時くらいに、行くんだ?」
「……どうせなら、深夜ではなく17〜18時のくらいに行くか?」
東牙は、楓に城へ行く時間を言った。
もちろん、この時間にしたのは、ちゃんと理由があった。
1番、警備が厳しいからこそ、不意打ちされる危険性は、絶対にあり得ないという考えがあったのだ。
「了解……。」
「……楓。これだけは、約束してくれるか?危なくなったら、絶対に逃げてくれると……。」
東牙は、せめて楓には、危害を最小限にしたい、という気持ちで、この約束を言った。
しかし、楓は「それは、私だけか?東牙と一緒に逃げるのなら、守ってやる。」と、なにがなんでも、2人という思いがあった。
「……分かった。約束する。」
東牙が、あっさり了承したのは、どうせ拒否をしても、無理だろうと判断したからだ。
だが、これから思いもよらぬことになるなんて、2人はまだ知らなかったという。
○
表通りが、1番賑わう夜の時間帯。
2人は、宿を出て行き、梯子を使い、屋根の上で、マントとシッポを風でなびかせていた。
そう、今から城へ、屋根を使っていくつもりだったのだ。
「屋根を使って侵入とは、なかなか考えもしない発想だな……。」
「ふふ……よく、私が使う移動方法だ。」
腕を組みながら、楓に感心する東牙。
そして、風が吹きやんだ瞬間「行くぞ……!」と、強く言って、屋根をたんたんと渡り、城まで向かって行った。
○
「こちら鉈崎……各員、異常はないか?」
城の内部に入れる、たった1つの入り口の前で、鉈崎は1人で、警備にあたっていた。
他の人員は、全て第1、2、3の門の前で、待機していたという。
「よし。油断はするなよ……。」
ブチッと、通信機を切り、食べかけのカップ麺を、1口食べる諺瑚。
すると、背後から「今日も、気合いが入っているねぇ…刑事さんよぉ。」と、男の声が聞こえた。
「橋鍍か……俺の勘だと、今日あたりに来るんじゃないかと思う……。」
「刑事の勘かぁ……ふっ、それじゃぁ、俺は第2門の、入口辺りを守っているぜぇ……なにかあったら、俺に連絡しなぁ……。」
そう言って、橋鍍は第2門まで、歩いて行った。
鉈崎は「貴様の助けなんてかりずに、やってやるよ……。」と、言って、カップ麺のスープを飲んでいた。
○
「これはすごい……私も、内側を見たのは初めてだ……。」
「しかし、ここからどう降りるか……。」
どうやら、2人はもう、城の第1門の上に居たようだ。
そして、ここから20m先の地上に、どうやって降りるか悩んでいた。
ちなみに、第1門を守っていた警備員は、まさか、上を通るとは思っておらず、2人が侵入していることに、気が付いていないようだ。
「やはり、警備も厳しいな……。」
「……よし。ここから、下に降りるか。」
東牙は、さらっと、とんでもない事を言った。
ここから、地上降りるとなると、もし失敗したら、命に支障が出るか、でないかくらいの、怪我につながる。
しかし、この問題は、獣である楓には全く問題なく、言いだしっぺが、1番の問題だった。
「しかし……大丈夫か?私は、別に獣だから良いが……。」
「何……この下は、丁度草むら……降りるにはまだ、マシな方だ……。」
余裕そうなセリフを吐いた東牙は、5秒後、目で楓に「降りる。」と、訴えて、そのまま勢いよく下に飛び降りた。
それにつられ、楓も飛び降りる。
そして、内壁と、自分の距離を近づけて落ちていた東牙は、冷静に腰にある刀を抜き、そのまま内壁に思いっきり刀を当てた。
すると、面白い現象が起こった。
壁に刀を当てることで、摩擦が生じる。しかも、東牙は、かなりの落下速度を持っていたため、摩擦は激しく、あまつさえ、摩擦熱で刀から火花が出て、キキーという、あの嫌な音が、周りにおぞましく響いていた。
この行動により、東牙の落下速度は、少しずつ落ち、無事に草地へ着地する。
楓は「なんだその方法は!?」と、心の中で呟き、絶句しながら東牙を見ていた。
しかし、この東牙の行動により、最悪な状況が、生まれた。
「居たぞ—!総員突撃—!」
2人が降りた瞬間、警備の人の声が聞こえた。
さすがに、あんな目立った降り方もすれば、自分たちの存在が、バレバレだろう。
「行くぞ楓……!」
「任せろ東牙!」
2人は、刀を構え、迫りくる、警備員に立ち向かった。
荒々しくも、華麗に相手の攻撃を見切っては、斬りつける東牙。
獣のような動きで、相手を翻弄して、スキを見ては、斬る楓。
2人のコンビネーションは、最高だった。