複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.31 )
日時: 2011/07/02 19:42
名前: コーダ (ID: H0XozSVW)

「なぜ俺を助ける……離せ……!」
「嫌だ!約束したじゃないか!2人で一緒に逃げると!それに次は、私が東牙を助けたい!」

 涙をこらえながらも、楓は暴れる東牙を離さず、ひたすら来た道を戻っていた。


                ○


「……おいおいぃ、どうする鉈崎ぃ?」
「ふんっ……だが、これでしばらく東牙はこれないだろう……。」

 2人は、腕を組みながら今の状況に対して、少々反省していた。

「それに、橋鍍のほうは良いのか?楓と言う女性を裏切って。」
「へっ……良いんだよぉ……たかが、四天王が1人減ろうとなぁ……くっくっく……。」

 橋鍍の不気味な笑いに、鉈崎は少々恐れを覚えたという。
 そして2人は、急いで城に入って、次の作戦を考えていた。


                ○


「……しばらく腕は動かないらしいぞ東牙……。」
「………………。」

 夜の表通りを、風のように走り、急いで病院に行って、診察をしてもらい、宿屋の部屋に入り、今に至る。
 楓は、東牙に優しく言ったが、東牙は距離を置いてただ黙っていたという。

「……すまなかった……まさか東牙がその……そういう人だと知らず……そして、私を敵としていたなんて……。」

 もう何を言っていいか分からず、とりあえず謝った楓、だが、やはり東牙は黙っていた。

「……だけど、何度も言うように、私は東牙を敵として見ない……いや見たくない……だって……うっ……。」

 楓はいままでこらえていた悲しみを、今ここで解放して、思いっきり声を出して涙を流した。
 普段なら、言葉をかける東牙も、今回だけはただ黙っていたという。
 そして、泣き疲れたのか、楓はベッドで横になり、しばらく東牙を見つめていたが、気がつくと夢の中へ行ってしまったという。

「(四天王に助けられたか……復讐を目標にする俺にとって1番最悪な出来事だ……ちっ……。)」

 楓が就寝すると、東牙は心の中で、何かを呟いていた。
 いままで復讐のために動いていた自分が、まさか敵に命を救われるという屈辱。
 考えたくもない出来事なのに、起こってしまった事。
 しかもよく考えると、完璧に自分が引き起こしたという事に、悔しさがどんどん増幅する。

 すると東牙は、何を思ったのか、ふと立ち上がり、左手で床に置いてあった楓の刀を、鞘から抜き、静かに眠っている楓の右胸に突きつけた。
 このまま刀を突けば、楓は即死する。
 東牙にとっては、願ってもいないチャンスだった。

 ———————————なにせ、あの鞘嘉多四天王をまた1人減らせるのだから。

 しかしそこから刀はピクリとも動かず、なぜかずっと止まっていた。

「(ちっ……動け……動けよな……四天王を殺せるチャンスだってのに……どうしてだ……。)」

 殺す気はあるのに、東牙の心の中で、何かがストッパーとなっているものがあり、刀が動かなかったのだ。
 その心には楓との出会い、会話、食事、就寝、起床などの出来事がたんたんと流れており、あの時、佳恵が言っていた「四天王だから?四天王だからという理由で、東牙は人を平気で殺すのですか!?」という言葉も流れていた。
 すると、だんだんストッパーの方が強くなり、刀はどんどん楓から離れ、最終的にカランと床に落とし「お、俺は一体何をしようとしたんだ……楓を殺すだと?……違う……そんなことしたくない……例え四天王でも、こうやって味方になってくれているのに俺は……俺は……なんてこと……くっ……。」
 静かにこのセリフを言い終わった後、なんと東牙が、その場で涙をポタリと落とし、その場で泣き崩れてしまった。

 どうして、楓を殺すということを思いついたんだという自分の酷い心に、悔しさを覚え、ずっと声をあげずに涙を流していたという。