複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.34 )
日時: 2011/07/03 15:08
名前: コーダ (ID: W4Fe.vPq)

「………………。」
「おいぃ、鉈崎ぃ……今日は朝から、やけに不機嫌だなぁ……どうしたぁ?」

 城の長い廊下を、橋鍍と諺瑚が歩きながら、会話をしていた。
 どうやら諺瑚の機嫌が、よろしくないみたいだ。

「ったくよぉ……刑事が不満になったら、できるもんもできねぇぜ?ひょっとして、今日の朝飯、気に入らなかったのかぁ?」

 橋鍍は冗談交じりで、諺瑚を心配する。
 すると「俺はこのまま、この仕事を続けて良いと思うか?」と、意外な一言が出てきた。

 橋鍍は「何を思ったか知らねぇがよぉ……辛いんなら、とっとと退散すれぇ……そういうやつが居ると、迷惑なんだよぉ……。」と、少々きつい言葉で刑事に言った。

「……すまない。いきなりこんな馬鹿らしいこと言って……ただ、あの話が気になっただけだ。」
「あの話ぃ?……あ〜……あれかぁ……。」

 橋鍍は、朝の出来事を思い出し、やっと諺瑚がこんな事を言い出した原因を理解する。
 なので「それに関しては、刑事の勝手だぁ……鉈崎はあくまで、仕事でここにきてるんだろぉ?勝手に退散しても、責任はそんなに問われねぇ……東牙を敵にするのも良いし、味方にするのも良いぜぇ……だけど、わかってんだろうなぁ?ある選択を選んだら、俺が敵になると……。」と、諺瑚の肩を叩きながら、自分の意見を言った橋鍍だった。

「ふっ……楽しみにしてろ……。」

 諺瑚は、笑いながら通信機を取り出し「各員。パトロールの準備をしろ!」と、言って乱暴に切る。
 どうやら、先まで纏わりついていた何かが、振り切れたみたいだ。

「行くのかぁ?」
「ああ、仕事に手は抜けんからな……後、俺はパン派だ……。」

 諺瑚は橋鍍に、敬礼をしてそのまま廊下を走り、隊員が居る外まで向かった。
 その様子を見て橋鍍は「ああいう兄ちゃんなら……最高だぜぇ……。」と、少々意味不明なことを言って、自分の仕事に向かったという。


                ○


「クゥ〜ン……。」

 一方、城下町のある宿屋では、なぜか犬の鳴き声が聞こえてきたという。
 そう、楓は今日の朝からずっと、部屋で東牙の帰りを待っていたのだ。
 さすがに寂しくなってしまったのか、思わず犬みたいに鳴いたという。

「なんで私は、ずっとここで待っているんだ?東牙は明日の朝になったら帰ってくるのに……。」

 ベッドの上で丸くなり、どうして自分は、ずっと待っているんだろう。という素朴な疑問を持っていたが、一向に解決しなかったという。
 傍から見ると、飼い主の帰りをずっと待つ犬にしか見えなかった。

「そういえば東牙……私のこと決して、狼とは言わないで、1人の女性として見てくれている気が……って、何を考えているんだろう……。」

 楓はふとそんな事を呟き、しばらくすると自分は何を考えているんだ。と、馬鹿馬鹿しくなったという。
 もしかするとこの女性には、ある感情が生まれてきているかもしれない。

「だけど……分かっている。そんなこと叶わないことだって……持つだけ無駄だって……。」

 彼女は一気に表情を変えて、思いっきり歯を食いしばり、ある感情を抑えた。
 セリフだけ聞くと、過去にも何度かそのような事があって、何度も諦めたということがうかがえる。
 はたして彼女は、過去にどんなことがあったのだろうか。