複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.35 )
日時: 2011/07/03 15:21
名前: コーダ (ID: W4Fe.vPq)

「あの城には、蓮花と佳恵さんが居る……だけど、昨日の出来事で分かった……俺はまだまだ、弱いということに……。」

 城下町から5kmくらい離れた林の中で、東牙はただ歩きながら、こんなことを呟いたという。
 まさか侵入して早々、あの刑事にやられるだなんて、想像もできなかったからだ。

「どうすればいいんだこういうときは……どうすれば……。」

 東牙はその場で膝まつき、珍しく悩んでいたという。
 自分の弱さを知り、これから城にいけるのだろうか?自分の弱さにより、大切な人を守れなかったら?などの思いが、たんたんと心の中で流れていた。

 ————————————————チリン。


 ふと林から、鈴が鳴るような音が聞こえた。

 東牙はすっと立ち上がり、周りをキョロキョロ見る。

 —————————————————チリン。

 鈴の音はどんどん大きくなり、こちらに向かってきているような感じがした。

「そこにいるのは誰だ……。」

 東牙は声を太くして、誰も居ない林に問いかける。
 すると「恐れるな……私は君に危害は加えない……。」と、女性の声が、林の中に響きわたった。

 ———————————————チリリン。

 東牙は少し警戒して、鈴の音が聞こえる方向に進んでいった。
 そして、草木が萌える道を進んだ先には、驚くべきものがあった。
 古そうな建物だが、どこか神聖な場所で、どことなく雰囲気が特徴的だった。
 そう、東牙が見たものは神社だったのだ。
 すると「ようやく来たか……。」と、突然、声が聞こえた。

 ゆっくり、声が聞こえた方向へ振り向くと、長くて黒い髪。上は白く下が赤い巫女服を着て、首には小さな鈴がかけてあり、目はつりっとしていて、メガネをかけている女性が、箒をもって東牙を見ていた。
 その姿はまさしく、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花という言葉が、出てきた。

「そんな陰気な顔で、私の敷地内を歩かないでくれるか?ただでさえ、陰気な場所なのに……。」

 巫女は東牙の顔を見ては、突然きつい一言をお見舞いする。
 すると「好きで陰気な顔はしていない……。」と、メガネをくいっと上げて返した。
 だが「ほう……なにやら事情があるようで……。」と、腕を組みながら、にやっと東牙に言った。

「あなたには関係ないことだ……。」
「ふふふ……関係ないだと?そのセリフを言うのは、少し遅すぎたのではないか?」

 巫女は、メガネをカチャっと上げて言ったが「ふっ……帰らせてもらう……。」と、言って、来た道を戻る東牙。

 しかしある場所まで行くと、バチッと、なにか見えない壁に弾かれてしまったのだ。
「な、なんだこれは……。」と、少々慌てて状況を確認する東牙。
 すると「無駄だ……もう君は、私のテリトリーに入っている……帰りたければ、黙って私の言う事を聞け……。」と、巫女らしくない発言が聞こえた。
 渋々東牙は、言う事に従い、また来た道を戻ったという。


                ○


「さて……君は一体、何に悩んでいる?」

 神社のある一室で、東牙と巫女はお茶と煎餅を、机に置きながら話をしていた。
 この言葉に東牙は「知らないな……。」と、お茶を飲みながら、巫女に喧嘩を売るかのような反応をした。
 すると巫女は、すっと立ち上がり「嘘を言うな……君には、とても深刻な悩みがある……顔に書いてあるぞ?」と、お祓い棒を東牙の顔に突きつける。

「だから、俺は何も悩みはないと言っているじゃないか……脅した所で、何も生まれないが?」

 この余裕綽綽な顔を見て「ふむ……仕方ない。少々手荒だが……。」と、言って、お祓い棒を思いっきり東牙の心臓部分へ突いた。
 突然の行動に「おい、いきなりなんだ?」と、東牙は声を太くして言ったが、巫女はなぜか目を閉じて瞑想をしていた。
 そして5分くらい経った頃に、巫女はゆっくり目を開けて「事情は概ね理解した……。」と、呟き、すっとその場に座り、両手で湯のみを持ちお茶を1口飲んだ。

「あ、あなたは一体何者だ?」
「私はただの巫女だ。科門……いや……鞘嘉多 東牙。」
「!?……どうして俺の名前を……。」

 東牙は突然、巫女が自分の名前を言ってとてもびっくりした。
 そして「ふふ……巫女として当然のことをしただけだ……。」と、怪しく頬笑み、東牙を威圧した。
 すると「……参ったよ。もうあなたの好きにしてくれ……。」と、白旗をあげたという。

「ふむ、最初からそう言ってくれれば、こんな事をしなくて済んだのに……私の名前は、柊 樅霞(ひいらぎ もみか)……よろしく。」

 チリン、首の鈴を鳴らし、自己紹介をした樅霞。
 東牙は心の中で「やっぱり巫女には向かない人だな……。」と、呟いたという。