複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.36 )
日時: 2011/07/03 15:52
名前: コーダ (ID: W4Fe.vPq)

「先程、東牙の胸をついたのは、君の心を読み取るため……色々な悩みが私の頭の中に入ってきた……。」
「そんなことができるのか……それは簡単にいえば、読唇術か?」

 東牙は樅霞の能力に、冷静に答える。
 すると「読唇術と言えば、読唇術だが少々かけはなれているので、正解にはいえない。」と、メガネをカチャっと上げて、質問に答えた。

「コホン……話は戻る……どうやら東牙は、昨日あの城に侵入したようだな……そしてあっさり負けて、自分の弱さを知り、ここをうろついていた……そういう解釈で良いか?」

 樅霞の直入すぎる解釈に「そ、そうだ……。」と、心にぐさりと、何かが刺さったような感じで認めた。

「なるほど……自分が弱すぎるからか……確かに君は、まだ弱い。体力的にも精神的にも……だけど、東牙にはある人を、絶対に守りたいという気持ちが、ひしひしと心の中にある……和服を着た胸がかなり大きい女性、着物を着た獣人、そして、明るくて紅い魔女……この3人は、自分の命よりも大事だということが、私の頭の中に流れてきた……特に、紅い少女を守りたいという気持ちが大きかったな……。」

 樅霞は、たんたんと東牙の心の中を言う。
 すると、あまりにも当たりすぎていて、東牙は絶句して聴いていたという。
 しかし「俺はそんなに、紅い魔女を守りたいという気持ちは強くないぞ?」と、一部を否定した。
 だが樅霞は「そんなことはない。君は5年間ずっと、傍に居てくれた紅い少女を1番守りたいと、常に思っている……体、心が思っていなくても、脳が絶対にそうさせているに違いない……。」と、なぜか5年間、木葉家に住んでいた事まで言われてしまった。
 これには堪らず「5年間は余計だ……。」と、少々顔をさげて、樅霞に言った東牙だった。

「だが、その思いは絶対に忘れるな……時としてそれが、強い力になるのだから……。」

 最後の一言に、東牙は「まぁ、努力してみるよ。」と、メガネをくいっと上げ、さっと立ち上がった。
 樅霞は「行くのか?なら、この鈴を持っていけ。」と、首につけていた鈴を外し、東牙の首につけた。

 突然の行動に唖然としていたが、また巫女が「この鈴は、お前が無事に生きて帰ってこられたら、もう1度ここに来て、私にそれを返しに来てくれないか?では、頑張ってくれ。」と、メガネをカチャっと上げて呟いた。
 そして東牙は、軽く会釈をして神社を後にした。

 ———————————————チリン。

 歩くたびに鳴る綺麗な音色。
 だけど聴いていると、どこか落ち着く音。
 東牙は「あの巫女に会っていなかったら、吹っ切れなかっただろうな……。」と、感謝の言葉を呟いて林を抜けた。


                ○


「鉈崎警視!」
「おう、どうした?」

 城の外では、鉈崎とその隊員6人が、夜のパトロールをしていた。
 すると1人の隊員が、思い出したかのように、諺瑚へ1枚の手紙を渡した。

「なんだこれ……っと、紗枝(さえ)からじゃねぇか!」

 諺瑚は手紙の封を切り、突然、紗枝という名前の人物が、彼の言葉から出てきた。
 すると隊員から「よっ!あいかわらずおしどり夫婦ですね〜。」と、ちゃちゃを入れられた。

「けっ……褒めてもなにもでねぇっての……。」

 実はこの刑事、すでに紗枝という女性と5年前に結婚していたという。
 しかし、夫の諺瑚が常にこんな感じで出張に行ってしまうため、こうやって手紙でやり取りしているのだ。
 隊員曰く、かなりの美人で家庭的な奥さんらしい。

「……そうか、娘も元気そうだな……悪いな。いつも遊んであげられない父親で……。」

 この時だけ、諺瑚は刑事の顔ではなく、完全に父親の顔をしていた。
 そして手紙を、2つ折りにして、懐のポケットに閉まって「早く仕事を終わらせて帰ってくるからな。」と、空を見上げながら決心をしたという。

「あ〜あ……自分も警視みたいに、綺麗で家庭的な人欲しいですよ〜。」
「そんなもん俺に相談すんな……自分の花嫁くらい、自分で探せ……。」

 しばらく、このやりとりが続いたのは言うまでもない。