複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.38 )
日時: 2011/07/24 22:49
名前: コーダ (ID: AfTzDSaa)

「東牙、本当に大丈夫なのか!?」
「ああ、これくらい刀が無くてもいける……。」

 城の侵入していた東牙と楓は、警備員を退けて、一昨日と同じパターンで城に向かって行った。
 楓が基本的に斬り込み役で、前の戦闘で刀を落とした東牙は、ただ攻撃を回避しながら進んで行った。

「だが、夜よりは手薄で助かったな……。」
「だけど油断はしない方が良いよ……あの刑事、また現れるかもしれないから……。」

 ———————————————————————チリン。
 例えどんな状況でも、鳴り響く首の鈴。
 だけどこれを聴くたびに、東牙の心は常に平常心を保てたという。
 まさかあの巫女は、そのために渡したのかもしれない。
 そして一昨日は、ここで終わった第3門の先。
 東牙はあの刑事を警戒したが、今日は全く出る気配がなく、すんなり城の入り口まで行けてしまった。
 たまたま、運が良かったのかもしれないという言葉では片付けきれず、2人は警戒して城のエントランスへ入る。
 思いのほか玄関は広く、真正面には左右に階段があり、そこを上ると対称的なギャラリーがあって、エントランスが上から見られるようになっていた。

「うわ〜……さすがはお城広いな……。」
「まずは地下に行って、捕まっている人たちを解放しよう……その方が戦力にもなるし安全に暴れられる……。」

 東牙の言葉に、楓はこくりと頷く。
 2人は一斉に地下の入り口を探しに走ろうとした瞬間。
 ————————————————バンッ。
 銃声が聴こえ「そこまでだ……侵入者……」と、聞き覚えのある男の声が聴こえた。
 2人は辺りをキョロキョロ見まわし、男の行方を探したが、一向に見つからず唖然としていた。
 そして「どこを見ている……上を見ろ。」という声につられ、左上のギャラリーを見ると、そこには一昨日に戦った刑事が居た。

「やはりそう簡単には城の中を見せてくれないと……。」
「そういうことだ。話を聞かせてもらったが、どうやら地下に仲間が捕まっているらしいなぁ……。」
「ふっ……もし助けると言ったら?」
「その時は俺の銃が発砲されるぜ……。」

 バンッ、と諺瑚は下に居た東牙を狙ったが、もちろんただで当たるわけのない東牙は、さっと回避して、そのまま左の階段を上り、諺瑚が居るギャラリーに向かった。
 すると諺瑚は、そのままギャラリーから飛び降り、下に居た楓を警戒してか、銃を乱射してそのまま着地した。
 その途端楓は、着地した隙をつき刀を諺瑚の後ろから振った。
 だが刑事は、素早い判断で銃の銃身で楓の刀を止めた。

「けっ……俺がそう簡単にやられるかっての……。」
「東牙!ここは私に任せてくれ!早く仲間を助けに行くんだ!」

 楓は、東牙の仲間を助けるということを、最優先だと考え、ギャラリーに居た東牙にこう叫んだ。
 すると普段の東牙なら「だけどそれだと楓が……。」的な言葉を言うはずなのに、今日に限っては「……分かった。だけど絶対に死ぬな。」と、楓に言ってそのままギャラリーを走ったのだ。
 やはりお互い、最優先するべきことは同じだったようだ。

「この犬っころが……俺の邪魔をしやがって……ただじゃおかねぇからな……。」
「ふふ、偶には東牙の役に立ちたいからな……それに、狼の私に犬っころとか失礼だぞ?」

 楓は笑いながら、諺瑚の言った言葉を訂正して、そのまま刀に力を入れ刑事の銃を弾いた。
 そしてそのまま後ろに少し下がり、両手で刀を構えては、風のように素早く動き、諺瑚の懐に入って刀を振る。
 だが刑事は、その刀に1発銃を撃ち、楓の勢いを相殺させた。

「くっ……やはり一筋縄ではいかないみたいだな……。」
「あったりまえだ……そう簡単にはやられてたら、部下に顔見せなんてできねぇっての……。」

 諺瑚はそう言って、左手にもう1丁銃を持ち、両手で乱射する。
 これにはたまらず楓は、素早く逃げ回ることしかできなかったという。
 そして2丁の銃は、同時に弾切れを起こしたらしく諺瑚が「ちっ……。」と、呟く。
 山場を越えた楓は、呼吸を整え「なんでその銃でそこまでの連射ができる……。」と質問をした。

「何……俺の銃はちょっと改造が施されているだけだ……そんなに驚くことではないだろ?」

 諺瑚は喋りながら、2丁の銃をリロードして、また楓に向かって乱射する。
 もちろんここでは立ち向かわず、ただ逃げ回るのが賢明な判断だ。
 そしてまた、銃が弾切れを起こしたらしく「けっ……逃げ脚だけは早いようだな……。」と、楓に呟いた。

「(右手の銃は15発、左手の銃は7発か?私が勝てる時は刑事がリロードをしているわずかな時間……。)」

 実はちゃんと逃げ回りながら、弾数を数えていた楓。
 もともと獣並の身体能力を持っており、回避しながら数えるくらいは朝飯前だったようだ。

「だが、そのうちスタミナ切れを起こすぞ?」

 両手の銃をリロードしながら、楓に警告した諺瑚。
 しかし「私は並の人間よりは体力に自信はある。むしろそちらの弾が間に合うか心配だな……。」と、挑発気味に言った。
 すると、突然銃を突きつけて、今度は乱射ではなく冷静に1発1発正確に撃ってきた。
 先を読んで、楓の一歩手前に撃ちこんだり、撃つと思いきや、フェイントで撃たなかったりなど、少しトリッキーな行動に少し戸惑ったという。
 そして楓の計算では、次に撃つ弾で最後という所まで来た。
 バンッ、最後の銃声が鳴り響き、一瞬諺瑚の顔つきが変わった。
 その瞬間に、楓は一気に態勢を整え、一瞬のうちに刑事の懐に入り「そのリロードを待っていた!」と、叫んで刀を思いっきり振った。
 だが諺瑚は、突然顔をにやっとさせる。
 —————————————————————————バンッ。
 銃声がエントランスで鳴り響き、カランと鉄か何かが落ちる音も聞こえ、その後床には、鮮やかな赤い液体が流れたという。