複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.44 )
日時: 2011/07/28 15:06
名前: コーダ (ID: n/BgqmGu)

「ん?……おかしいな……。」

 東牙は、首にかけてある鈴を見て、眉間にしわを寄せて考えていた。
 そう、なぜかあの時刀を手に入れてから、1回も鳴らなくなっており、いくら振っても音は出なかったのだ。

「もしかして壊したか?」

 そして東牙は、あの時の巫女を思い出し、心の中でこれはやばいと、焦りを感じ始めたという。

「確か蓮花と佳恵さんは、買い物に行ったな……。」

 東牙はこの宿に、2人が買い物で居ないことに気づき、急いでベッドから出て、少々乱暴に扉を開け、急いであるところに向かったという。
 まだ傷は完治していないため、下手したら悪化する可能性があるのに、この男は全くそんなことを考えず、城下町を出た。


                ○


「確かこのあたりのはず……。」

 東牙はうろ覚えの、頭の地図で林を歩いていた。
 そろそろ空が、茜色に染まる時間帯なので、早いとこ見つけたかったらしい。
 そしてようやく男は、この前偶々お世話になった、あの神社の目の前に来た。
 やはり神秘的で、独特な雰囲気を醸し出す場所。
 東牙は「こうやってゆっくり見ると、良い場所かもな……。」と呟き、赤い鳥居をくぐって、そのまま神社の中へ入っていった。
 しかし神社に入っても、人の気配は微塵もせず、聴こえてくるのは、少し死ぬのが遅すぎたセミの鳴き声か、少し早いコオロギの鳴き声みたいな虫の鳴き声しか耳に入らなかった。
 東牙は思い切って「樅霞?居るのか?」と、神社に声が響くように言った。
 だが、樅霞がここに来る気配は、全く感じなかった。
 ここまで来ると、不在の可能性が高いのに、東牙の心はなぜか「絶対に居る。」という、変な自信を持っていた。
 いや、心が勝手にそうさせたと、言った方が良いだろう。

「……全ての部屋を探そう。」

 東牙にしては、とても珍しい粘り強さ。
 いつもなら、すぐに帰って後日訪れるのに、今日に限っては諦めきれなかったという。
 神社の居間。
 線香の臭いがきつい部屋。
 おそらく樅霞が寝ているだろうという部屋。
 本当に全て探し、最後は仏壇の部屋に入った。

「ここは……なにやら他と、明らかに雰囲気が違う……。」

 他の部屋も、かなり線香の臭いはきつかったが、ここだけは格別にきつかったという。
 だがそれを忘れさせてくれるくらい、異様な雰囲気。
 チリン、鳴らなくなった鈴が突然鳴り響き、東牙はとても慌てて首の鈴を凝視した。
 とりあえず壊れていないと確認した東牙は、次に仏壇を凝視する。
 すると仏壇に、1枚の紙が乗っていることに気が付き、気づいた時には無意識にそれを手に取り読んでいた。
 まるで、誰かに操られているように。

           柊の神社に授かる刀
          常に神社で待っている刀
           時には旅に出る刀
          主を見つけられず帰る刀
           それを制御する鈴
           刀と鈴は親子の関係
          そして刀と鈴は巫女の子
          決して離されない関係
           この3つがある限り
           柊の神社はずっと
           建ち続けるだろう

 紙に書いている文字を全て読み、そのまま何事もなかったかのように仏壇に戻した東牙。
 すると不意に「生きて帰ってきたか東牙……だが勝手に、私の神社に入るのは少々どうかと思うが?」と、声が聴こえてきた。
 慌てて後ろを振り向いて東牙が見たものは、腕組をしながら仁王立ちしている樅霞だった。
 これには口答えしない方がよい、と判断した東牙は、すっとその場で正座をして顔を下げたという。

「ほう……悪いと思ったらその場に正座か……面白い、今回は許してあげようじゃないか……。」

 腕組を解き、メガネをカチャッと上げて、樅霞は不法侵入した東牙を許したという。
 これには思わず「良いのか……。」と、口で呟き突っ込んだという。

「前よりも迷いがなくなっているな……やはり鈴を与えておいて正解だった。」

 樅霞は東牙の顔だけを見て、前よりもマシになっていると呟いた。
 そして正座している東牙の後ろに回り、そのまま「鈴を返してもらう。」と言って、首にかかっている鈴を外してすぐに自分の首にかけた。
 チリン、樅霞が付けた途端、鈴は音を鳴らした。
 まるで御主人の元に帰れて、嬉しい気持ちを表すかのように。

「なんで俺に鈴を預けたんだ?」

 東牙はその場に立ち、すっと後ろを振り向いて、少々疑問に思ったことを樅霞に言った。
 すると「簡単だ。東牙が常に平常心を保てるように渡しただけだ。」と、目を吊り上げて理由を答えた。
 だがこの男は「はたしてそれだけか?他にも理由があるんじゃないのか?」と、さらに問い詰める。
 しかし樅霞は、表情を変えず「他に理由と?私にはそれしか理由はない。」と、本当にそれしかないように思わせた。

「……そうか、すまない深く問い詰めて。」

 東牙は素直に、疑い深い事をして悪いと思い樅霞に謝った。
 そしてこの男は少し歩き、樅霞を完全に無視した状態で「そういえばあの時見つけた刀かなり綺麗だったな……。」と、斜め45度上を見ながら呟いた。
 すると、それを聴いた樅霞は、途端に東牙の目の前へ回り込み、そのまま胸ぐらをつかみ「それはどういうことだ?」と、声を低くして詳細を聞き出そうとした。
 だが東牙はにやっとして「どうした?俺はただ“刀”と言ったけであって決して“その鈴”で見つけた刀とは言ってないが?」と、樅霞に言った。

「な……くっ、カマをかけたか東牙……。」

 樅霞は東牙の胸ぐらを離した。
 これで、鈴を持たせた本当の理由を聞けた東牙は「まぁ、座ってお茶でも飲みながら話すか?」と、先程までの雰囲気をなくして巫女に言ったという。