複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.45 )
日時: 2011/07/28 15:12
名前: コーダ (ID: n/BgqmGu)

「俺に鈴を持たせた理由は、この神社にある刀を見つけ出すために……だろ?」

 パリッと煎餅を1口かじって、東牙は樅霞にこう言った。
 もちろん「そうだ。東牙の言う通りだ。」と、素直に認めたという。

「あの仏壇に書いている紙の内容から、少し考えれば導き出せる……その鈴は刀を見つけ出すためにある……だろ?」
「まさかあの紙で、そこまでの情報を得るとは……さすがだな……完敗だ東牙。やはり私の目は正しかったよ。」

 樅霞はなにやら、東牙を試したのでは?と感じとれる発言をする。
 もちろんこの言葉に東牙は「俺は実験台か……。」と、お茶をぐいっと飲み不満に思っていたという。

「すまない、なにせ大事な刀だからな……。」

 樅霞は、東牙の湯飲みにお茶を注ぎ謝罪した。
 この言葉に異様を感じ「ん?その鈴は柊の刀しか反応しないのか?」と、質問をした。
 すると「そうだ、この鈴は私の柊神社に代々ある刀しか反応せず他の刀には一切反応を示さない。」と、お茶を啜りながら言った。

「……おい、もしかしてその鈴って……。」

 東牙はとても嫌な予感がした。
 そして予想通り「恥ずかしながらこの鈴はこの神社にある刀が紛失したときに使われる物だ……。」と、樅霞はこめかみを触りながら言った。

「………………。」

 東牙はそのまま、ピタリと止まり絶句していた。
 樅霞もただ黙ってお茶を啜ることしかできなかったという。


                ○


「あ—!あいつどこ行ったのかしら!?」

 一方宿屋では、少女が部屋に1人居ないことに気が付き、叫んでいたという。

「あらあら……どうしたのでしょうかそんなに声を出し……東牙?……えっ?……どこに言ったのでしょうか!?」

 遅れて佳恵も現れたが、反応は蓮花と同じく東牙が失踪したことに驚いていた。

「あの馬鹿……傷口は完治するまで動かないでと、あれほど言ったのに……良い度胸しているじゃない……。」

 気がつくと蓮花は杖を持っており、魔力も解き放っていたという。
 佳恵も「帰ってきたらどうします?」と、イジワルな顔をして蓮花に言った。

「ふふ……もちろん罰に決まっているじゃない……決まり事を守らない人は、問答無用で裁判官から……うふふふ……。」

 いつもと雰囲気が全く違う蓮花に、佳恵は少々恐れを感じたという。
 だが考え方を変えると、蓮花は東牙のことを本当に大切にしているんだな。ということが感じ取れた。

「裁判官、わたくしに指示を下さい……。」
「とりあえず、ナスをいっぱい買ってくるのよ……ふふ。」

 そして、しばらく2人の猿芝居が続いたという。


                ○


「ということは、城で見つけた刀は柊神社のか?」
「ああ、この前ごろつき共が勝手に私の神社に入っては、1本刀を盗んでいってな……しかも、翌日になったら、そのごろつき共があの城に捕まったと聞いた……だから取りかえそうにも、取り返せなかったんだ。」

 樅霞はメガネをカチャッと上げて、どうして城に刀があったのかを言った。
 意外にもおっちょこちょいな無くし方に、東牙は「樅霞は見かけによらず抜けてるんだな……。」と、思わず声に出して言った。

「あの時は偶々滝に打たれていてな……。」
「まぁ、理由はともあれ盗まれたことは事実なんだ……そこは素直に認めておけ……。」

 言い訳する樅霞に、東牙は一言で王手をかけた。
 もちろん巫女は、参りましたと言わんばかりに、頭を下げたという。

「だけど刀は宿に置いていったからな……。」
「いや良い……落ち着いたらまたこの神社に来て、私に渡してくれれば……まだやることがあるのだろう?」

 樅霞は東牙の事を考えて、この言葉を言ったのだろう。
 すると「良いのか?俺の刀の扱いは少々荒いから、傷がついた状態で返ってくるぞ?」と、一応警告した。
 だが樅霞はメガネをカチャッと上げて「大丈夫だ、“月刀(げっとう)”はそう簡単に傷はつかない……むしろ東牙のように使う人にはピッタリな刀だ。」と、笑いながら東牙に告げた。

「月刀……あの刀の名前か……良い響きだ。」
「柊神社の次男坊を、しばらくよろしく頼む。」

 東牙はこの言葉を聞いた瞬間「ん?次男坊?」と、疑問を問いかけた。
 すると「ああ、月刀は次男坊だ……この神社には後、長男坊と三男坊が静かに眠っている。」と、まだ刀があることを教えてくれたという。

「是非ともこの目で、長男坊と三男坊を見たいのだが……さすがに無理なんだろう?」
「もちろんだ……むやみに外へ出したくはない……。」

 樅霞はもう2本の刀は、見せられないと断言する。
 当たり前と言えば当たり前だな。と、東牙は心の中で呟いた。

「さて……時間もあれだしそろそろ失礼する。」
「そうか……次に来るときは東牙1人じゃなくて、誰か彼か連れてきて欲しい……それでは頑張ってくれ。」

 東牙は軽い会釈をして、そのまま神社を後にした。
 気がつくと、空はもうすぐ夜を迎えるところだったので、急いで宿屋に向かったという。
 なお、その後東牙は、蓮花と佳恵にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。