複雑・ファジー小説
- Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.5 )
- 日時: 2011/06/25 17:01
- 名前: コーダ (ID: 5hG5Ocn3)
「昨日よりは人混みが少なくて良いな……。」
東牙は昨日よりも人混みが少なくて、とても安心していた。
今日なら自分のペースで歩けて、色々観察できるからだ。
佳恵は職業柄、周りを警戒して歩いていたが、雰囲気が全く出ていないので人々からは何も思われていなかったという。
「……佳恵さん?別にそんな警戒しなくても良いですよ?俺だってきちんと訓練されています。ボヤが起こったとしても、ある程度なら自己解決できますので。」
「あらあら……それではわたくしがここにいる意味が全く御座いませんね……後、わたくしに向かっては別に敬語でなくてもよろしいですわよ?これでは立場が逆に見えてしまい、わたくしが襲われかねませんわ。」
東牙はもう少しリラックスして欲しいという意味で言ったことなのに、佳恵からすると、別にいらないから良いですよと捉えたらしい。
しかもその後の敬語に関する指摘について、東牙は特に困ったという。
この少年はやはりこういう大人の女性が苦手で、いつもの調子が出せないから、自然(不自然という使い方の方が良いかもしれないけど、東牙にとっては自然なので)と敬語になってしまうのだ。
それに、こうやって自分が敬語で話せば、まず襲われることはないという考えもあったので、余計困ったのだ。
「努力します……それにもし佳恵さんが襲われても俺が助けに行きますから安心して下さい。」
「ふふ……本当に可愛い子ね……是非わたくしの息子にしたいですわ。」
この言葉に東牙は満更でもない気持ちで、否定したのは言うまでもなかった。
○
「むっ?」
「どうしたのでしょうか?」
2人が歩いていると突然東牙がある射的屋を見て一言呟いた。
少年にとっては、昨日ボヤが起こって、いざ自分が止めようとしたら、木葉という、とても力のある一族と知り合いになったきっかけを作った屋台でもあったので、つい足を止めてしまったのだ。
「ごめん……ちょっとあの店に寄って良いか?」
「わたくしが止めると思いまして?是非楽しんでいって下さい。」
「すまんな。」
東牙は佳恵に断りを得て、真っ直ぐ射的屋に直行した。
走っている途中で、そういえば俺普通の口調で佳恵さんと話せたな、と思ったのは言うまでもない。
射的屋の目の前に来た東牙は、そこでまさかの人物が目線に入った。紅い魔法服を着た親子連れの2人だったという。
少年は一瞬自分の目を疑ったが、やはり見間違いではなかった。
するとあちらの紅い少女も、こちらに気づき母を引き連れて走ってきた。
少し考えて逃げようかと思ったが、それは失礼に値するため、東牙は仕方なく2人と対面する。
余談だがこの時点で、佳恵の姿は居なかったが、誰も違和感に思わなかったという。
○
「まさか……今日も木葉家と会えるなんて……思いもしませんでしたよ。」
「こちらこそ、まさか東牙さんに会えるなんて思いもしなかったわね。」
まず東牙と箕琴が第一声を発した。
影で蓮花はただ黙って2人の会話聴く。様子からすると、昨日かなりの説教があったに違いないだろう。
「まぁ……こちらはけっこう暇なのでよく外で歩いてるんですよ。」
「そうなんですか?良かった……今日中にお詫びが出来るって事ですよね?それなら……。」
「えっ?お母さんこの人家に連れて行くの?」
「当たり前よ!元はと言えばあんたが起こした騒ぎなんでしょ!?本来ならあんたがお詫びを入れるはずなのよ?」
箕琴は自分の娘にまたガッツリと注意した。
少年は心の中で、この母はかなり律儀だなと思ったらしい。
しかし感心している場合ではなかった。このままでは木葉家に訪問してしまうという危険があった。
この様子を誰かに見られたら、東牙は一生の終わりと言っても過言でもない。鞘嘉多の決まり的に言わせればの話だが。
「いえいえ……お詫びなんてする必要全くないですよ……では……自分は知人が待っているので……。」
「ちょっと待ちなさい!家のお母さんが、せっかくお詫びしたいって言ってるのに何その態度!?いくらなんでもそれはないんじゃない!?」
東牙が丁寧に断った瞬間だった。
突然紅い少女蓮花が首を突っ込んだのは。
どうやら自分の母の好意を無駄にするのには、納得いかないようだった。
「偶にはそれらしいことを言うんだな……そこの紅い少女。」
「私は蓮花というお母さんがつけてくれた立派な名前があるのよ!?紅い少女とか失礼じゃない。」
「そうだったな……そんな名前だったな……。」
これは明らかに少年の方が失礼であったが、東牙はなんとも思わずそんな名前だったな、と少々小馬鹿にするように言った。
さすがにこれには蓮花も堪忍袋が切れたらしい。
「ちょっとそれどういうことよ!?むむ〜……ごめんお母さんこの男連れて先に帰ってるわ!」
「お、おい!ちょっと待て!やめろって!」
「黙ってついてきなさい!」
蓮花は東牙の手を思いっきり握って、そのまま木葉家に直行した。
少年は離そうと懸命にあがいたが、思ったよりも少女の力は強くて振り解けなかったという。
箕琴はその様子を見て、ただ、ほほえみながら後を追いかけていった。
東牙はもう終わりだと心の中で呟いて、木葉家に向かっていった。
「……あらあら……これは急展開ですわね……ふふふ……。」