複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.7 )
日時: 2011/06/25 18:04
名前: コーダ (ID: 5hG5Ocn3)

「はい。着いたわよ!」

 蓮花はある部屋の扉を勢いよく開けた。
 部屋の真ん中には、長方形のテーブルとイスが置いており、壁には色々な絵が並んでいた。
 東牙は一瞬で、ここは客人を招くために使われる部屋だと判断した。

「ちょっとお茶とか持ってくるから、そこら辺で待っててよ?」

 そう言って少女はすぐさま部屋から立ち去った。
 一応もてなしはできる(さすがに言葉までは完璧ではないが。)のだなと、また東牙は心の中で呟いた。

「……ふう……参った……これは本当に参った……俺は今普通に木葉家に居る……こんなの鞘嘉多の関係者に見られたら……想像したくもないな……。」

 東牙は息を整えて、今自分がどんな状況にあるのかを改めて考える。
 他人を振り回さず、他人に振り回されない、という鞘嘉多の決まりを普通に破っているのだから。
 余談だが、この決まりに反対する鞘嘉多の関係者も、実は極少数ながら居たりする。
 しかし、あらがったところで、自分の命がなくなるだけなので、行動には移せずただチャンスを待っているだけなのである。
 さらに余談だが、この決まりを唯一反対した鞘嘉多の後継者も居たというが、その人は即死刑となった。

「まっ……見つかったら見つかったで、悪あがきはするけどな……。」

 東牙は最悪な状況になったらどうするかを、もう決めっていた。
 ただ、自分の刀で悪あがきをするだけだが。

「……しかしこの部屋何もないな……と思いきや……最高の暇つぶし道具があるじゃないか……。」

 少年はそんなことばかり考えてもしょうがないと思い、頭をすぐに切り換えて、この部屋を探し回った。
 すると部屋の片隅に、本棚があったのを見つけては、誰の許可も得ずに、とても分厚い本を読み始めたという。

「……ほう……これは木葉家の歴史か……。」

 東牙は普通に本を読んでいたが、この本はただの本ではなかったのだ。
 その見た目はただの分厚い本だが、中身の文字は“魔道文字”で書かれていたという。
 魔道文字を読めるのは、その名の通り魔法使いのみなのに、この少年は普通に違和感なく読んでいたのだ。

「遅くなってごめん!ん〜?あんた読めない本を読んで面白い?」

 東牙がしばらく本を読み進めていっていると、突然部屋の扉が開いて、蓮花がお茶菓子を持ってきた。
 そして少女は、魔道文字で書かれている本を読んでいる東牙を見て、少々小馬鹿にして言った。

「はっ?……いや、普通に読めるぞ、これ。」
「はいー!?ウソでしょー!?」

 思いもしない一言が帰ってきて、蓮花はとても驚いて東牙の元に急いで近づいた。そして無理矢理本を奪い所々確認した。

「何をしてるんだ?この本は普通に読めるって言ってるだろ?」
「そ、そんなはずはないわ……これ魔道士しか読めないのよ?もっと正確に言えば魔女だけよ!?」
「そうなのか?面白い本だなこれは……なぜ魔女しか読めなくするんだろうか……。」

 驚いている蓮花なんて気にしないで、東牙はこんな良い本を、特定の人にしか読ませなくするのは、もったいないと思っていた。

「……あなた……ちょっと疑問に思うところおかしくない?」
「なんだ?どういうことだ?」

 蓮花はのんきにもったいない、と言っている東牙に、とても真剣にツッコミを入れたが、本人は何を言っているのかよく分からず、頭の中で色々整理をしていた。

「なんでこの本を読めるのか?よ!あなた自分が何者か分かっているの!?」
「俺は俺だ……普通の人間で、決して魔法使いでもない……。」

 この返答に蓮花はもっとびっくりしたらしい。
 そしてもっと少年を問いつめた。

「じゃあさ……言うよ?なんで、あなたから凄まじい魔力を感じるのよ?昨日もそうだったけど。」
「……魔力?俺にそんなものはないが……。」

 東牙の何気ない一言は、蓮花にとっては重傷者と思ったらしい。
 それもそのはず、自分自身のことが未だによく分かっていないのだから。

「はぁ〜……先の言葉でよ〜く分かったわよ……。」
「だからなんだっていうんだ?」
「あなたは“魔法律”を破っているわ……自分の魔力を知らなさすぎてね。」

 少女からは“魔法律”という言葉が出てきた。
 簡単に言えば、今の法律を魔法的目線で見た物だ。もちろん破れば、なんらかの刑を執行される。
 東牙もさすがに、この言葉を聞けば、今自分がどんな状況に陥っているのかは簡単に想像できたらしい。

「お、おい……それってどうなるんだ?」
「あなたは“自分自身に蓄積されている魔力の危険さを知らない”という事で、とても危険な人物に早変わりよ?そうね……魔力の強さなら即魔法死刑……良くて懲役15年かしら……。」

 東牙はとても焦った。
 こんな所で、自分が魔法律を破っていたとは思いもしなかったし、しかも、鞘嘉多の後継者が懲役を貰った事が、周囲に知られたら、それだけで自分の立場が危ういのものっかてきているからだ。

「……参ったなこれは……。」
「参ったわねこれは……でもまだ早かったから少しはマシになるかな……いや……う〜ん……ちょっとこれは私だけでは決めかねないわ……ちょっと家の関係者全員呼んでくるからここでおとなしくしていること!もし逃げたら……刑はもっと重くなるわよ?」

 さすがに東牙も、抵抗せずに黙ってこの部屋で関係者が来るのを待っていた。
 するとふと少年の頭の中に、ある1人の女性が現れた。

「そういえば佳恵さんどうしてるんだろう……。」

 今更、佳恵の事が心配になっているが、今はどうしようもないので、すぐに頭の片隅置いた東牙であった。