複雑・ファジー小説

Re: 復讐 5年の歳月を経て…… ( No.72 )
日時: 2011/06/25 19:13
名前: コーダ (ID: 5hG5Ocn3)

 気がつくと、この場に居たのは東牙と蓮花だけになった。
 先まで騒々しかったのに、今だけは、外の虫の鳴き声が聴こえるくらい静かであった。
 すると「雪月花……それぞれ刀の最初頭文字を抜くとできる……。」と東牙は本を読みながら呟いたという。

「あっ、東牙も思った?実は私も思ったのよね……雪月花か〜。」

 蓮花は、お茶を啜りながら自分も、そう思っていたと東牙に言った。 そして、その場にすっと立ち、黙って縁側まで歩き、東牙の有無を聞かず、隣に座ったという。
 つられて東牙も本をパタリと閉じ懐に入れた。

「あまり考えたくはないが、3本あってやっと1人前って事か?」
「う〜ん……どうかな……刀が3本あった所で何か変わるのかしら?」

 2人は、ただ、雪月花について予想していたが、やはり持ち主である樅霞に聞いた方が早いと思った。
 そして、すぐに、その話を切り上げ別の話をしたという。

「……ん?そういえばもう秋が近いな……。」
「あら、本当ね。」

 東牙は、遠くの方に生えている紅葉の木を見ながら、ふとそんなことを呟いたという。
 蓮花もつられて紅葉を見て一言呟いた。

「この季節になると少々もの哀しくなる……だがそこが良い……。」
「はいはい毎年読書の秋でしょ?私は断然食材の秋よ。」
「食材?食欲ではなく食材か……。」
「もちろん!秋にしかない味覚を、どう料理するかが毎年楽しみなのよね〜。」

 秋について、会話をする2人。
 いままで、緊張している雰囲気に居たので、こういった雑談は、あまりできなかったが、今日はそういう雰囲気ではないので、思い切って話せる2人だった。

「ったく……そのフレーズは耳にたこができるくらい聴いた……。」
「どうせ料理を普段しない人にはわからないことだから良いわよ〜……所で今年は何食べたい?」
「とりあえず茸ご飯と栗ご飯は頂こう。」
「全く。そのフレーズは耳にたこができるくらい聴いたわよ……まぁ、1番無難で美味しい食べ方だから良いけどね。」

 実は、お互い似たもの同士。
 だけど、それには気づかない2人である。
 5年間、同じ屋根の下で過ごして居れば、そうなるといえばそうなるが。

「芋も捨てがたいが芋は調理が限られるんだよな……。」
「確かにそうねぇ……。」
「そういえば本で読んだことあるんだが芋餅という物が存在するらしい……。」
「へぇ〜……面白そうね今度作ってみようかしら?」

 普段から口数が少なく、あまり表情を変えないで話す東牙だが、今だけは全て逆であった。
 やはり、隣にいる少女には、自然と心を許してしまうようである。

「栗はけっこう甘いからデザートとかはできないのか?」
「できるしそういう物はあるわよ?」
「むっ……そうなのか?」
「あんたってあまりケーキとか食べないから、知らないだけね……私は好きなのよね〜。紅茶にも合うし。」
「洋菓子を食べるくらいなら、和菓子を食べた方が良い……。」
「それで夏はずっと私に羊羹を作らせていたわね……あれってけっこう難しいのよ?」

 蓮花も蓮花で、東牙がリクエストする物には、快く作ってくれる所がある。
 自分の勉強にもなるし、東牙が喜んでくれるからという理由で。

「それは分かるけど……どうも、お前が作る羊羹は他より美味くてな……。」
「それ何回も聴いてるんだけど一向に飽きない自分が怖いわ……。」
「羊羹の中に栗でも入れてみるか?」
「あっ、それ良いわね。」

 この会話聞くだけだと、ただのおしどり夫婦にしか見えない。
 蓮花の母、箕琴曰く、あの2人の仲を引き裂ける人には、是非とも裁判官になってもらいたいくらいだという。

「なるほど……秋は食材……ちょっと分かってきたかもな。」
「でしょ?」
「今度は読書の秋の魅力をお礼に教えなければ……。」
「あ〜……パスするわ。」

 笑いながら、私には読書は無理だという顔をした蓮花。
 これを見た東牙は、つられて「ふっ……。」と笑い「だろうな……。」と潔く諦めたという。

「ねぇ、話し変わるけど……もしこのいざこざに終止符を付けたら、あんたどうするの?」