複雑・ファジー小説
- Re: 復讐 5年の歳月を経て… ( No.9 )
- 日時: 2011/07/04 07:46
- 名前: コーダ (ID: kY71cFa4)
「東牙殿!」
「だからいきなり襖を開けるなと言っているだろ爺さん?」
鞘嘉多家東牙の部屋で、いつも通りのやりとりが行われていた。
老爺が、東牙の部屋に来ることは毎日のことなのに、未だ襖を、突然開けるクセが治らなくて、少々少年は懲りていたらしい。
「おっと失礼致しました……っと、それどころではないですぞ!東牙殿がこの2ヶ月間、ずっとここから外出をしていると関係者からの報告が多数あったのですぞ?」
「それがどうした……悪いか?」
どうやら2ヶ月間、外出をしている姿を見られていたらしく、東牙は少々焦ったが、肝心の木葉家に行っているという事は、まだ知られてなかったので、あまり焦らなかったという。
「いえ……この爺としてはとても嬉しいですぞ?……だが、少々怪しい噂を耳にしたので。」
「その噂は?」
「……東牙殿が……赤紅最高裁判魔法管理事務所に出入りしているという噂が……しかも紅い少女と一緒に行動しているというのも……。」
この言葉を聞いた瞬間、東牙は一気に眉間にしわを寄せて「そんな噂は信じるな。」と言って、部屋からとっとと出て行ったという。
もちろん老爺は、その行動を見逃さなかったが、少し気になることがあった。
「……佳恵殿。そこにいるのは分かっているのですぞ?」
「……あら……さすがは鞘嘉多家の最年長さんですわね……。」
老爺はわずかな気配を察知して、天井裏に隠れていた佳恵を呼び出した。
もちろん佳恵は、すぐに現れては、そのトロンとした口調で、何事もなかったかのように話した。
「まだまだ現役ですぞ……さて……佳恵殿……そなたの言うとおり、東牙殿はあの木葉家に何度も訪問しているようですぞ?」
「……そうですわね……。(すみません東牙……やはり私には、こうすることしかできないようですわ……。)」
「さて……これで東牙殿に鞘嘉多家を任せられなくなりましたぞ?もちろん処置もしないといけませんの〜。」
老爺は、上を見上げて、東牙の処置を考えていた。
もちろん佳恵は、無言で話を聞いていた。
「まっ……全て東牙殿が悪いとは思いませんからの……木葉家の方々も含め、処置をするとしましょうか?」
「その……処置はどういったものでしょうか?」
「……それは佳恵殿に関係ないものですぞ?そなたはただ、用心棒として、業をなせばいいのに、なぜ鞘嘉多に関わろうとするのか?爺には全く理解不明ですぞ……それに、もう処置の方は、現在進行形で進んでいるし、今更やめろとはいえませんぞ。」
佳恵は恐ろしいことを聴いてしまった。
なんと、東牙と木葉家関係者の処置はもう進んでいるらしい。
「……少々失礼致しますわ……。」
佳恵は何を思ったのか、自分から話を切り上げ、急いで部屋から出ようとした。しかし、老爺はそんな佳恵を止めた。
「まぁ、待ちなされ佳恵殿……そんなに気になるのでしたら……少し手伝いをして頂けるでしょうか?」
「はい?」
佳恵は、浮かない返事で、ただただ老爺の後をついて行った。
○
「……参ったな……これは最悪なパターンだ……まさか関係者に見られていたとはな……。」
東牙は、木葉家に行くための道をあるきながら、これからどうするかを考えていた。
最悪、もう帰らないのもありだな、とも思った。
「まぁ……これはこれでありか……俺は鞘嘉多の決まりを反対してるんだし……。」
少年口からは、なんと、鞘嘉多を反対するという言葉が出てきたという。
東牙もなんだかんだいって、鞘嘉多の決まりを嫌っていた。
なので、あまり危機感は感じていない、むしろ、スッキリしているという。
「12年間……意味不明な掟に縛られてきた……俺は少しずつ、それは無駄な人生だと思い始め、いつしか、この無駄な12年間を取り返すために復讐をしようとも考え始めていた。」
たんたんと、東牙は決まりを嫌がる理由を言う。
この意味不明な決まりが、自分の12年間を無駄にした。
そういう、怒りと憎しみが若干ながら、感じ取れた一言でもあったという。
「今日が山か?」
少年は、人が変ったようにそう言って、のんびり木葉家に向かった。
しかし、この後、とても大変なことになる前触れだとは、本人は気づいていないが。
○
「おじゃまします……ん?」
東牙は、何度も訪問している木葉家に律儀に挨拶した。
親しき仲にも礼儀あり、ということわざが好きなのかもしれない。
しかし、洋館に入っては、木葉家の関係者全員がザワザワしていたのにすぐに気づいて、東牙は近くにいたメイドに話を聞いた。
「一体、今日はどうしたんでしょうか?」
「それがですね……今日の朝……蓮花お嬢様が誘拐されたんですよ。」
「……なるほど……それは一大事ですね……で?犯人は分かっているのですか?」
「はい、確か“鞘嘉多”と言ってましたね。」
東牙は眉間にしわを寄せた。
一応、木葉家の関係者には、箕琴と蓮花を除いて名前しか言ってなかったから怪しまれずにすんだが、これは一大事だとすぐに感づいた。
「……すみません……鞘嘉多の馬鹿どもが勝手に……。」
「は、はい?」
東牙は、そう言った瞬間に、走ってこの洋館から出て行った。
もちろん、メイドは何を言っているのか分からず、そのままにしといたらしい。
少年が向かった場所を、予想するのはたやすかった。
そこは、自分が生まれ育った場所、鞘嘉多家。理由は簡単だ。
1人の少女を助け出すためだけである。
「(ついでに鞘嘉多家との縁を切ってやるか……待ってろよ蓮花……。)。」
東牙は、1秒でも早く鞘嘉多家に向かって走った。
そうしないと、蓮花の身に何が起こってもおかしくなかったからだ。
